第415話 むしろ汚名を積み上げただけだよ
サハギンロードが生み出した猛烈な勢いの渦のせいで、みんな身動きが取れなくなってしまった。
この状態をどうにか解消しようと、僕は城壁を作り出す。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
ほとんど一瞬で生み出された城壁によって、水流が強引にせき止められる。
「~~~~ッ!?」
水流に乗って高速で泳ぎ回っていたサハギンロードは、その勢いのまま頭から城壁に突っ込んでいった。
ドオオオオオオオオンッ!!
「うわ、痛そう……」
白目を剥いて、ふわふわと水中を漂うサハギンロード。
どうやら気絶してしまったみたいだ。
「……い、今のうちよっ!」
まだ少し目を回しつつも、すぐさまセレンが氷の魔法でサハギンロードの下半身を凍らせた。
「これでもうあちこち泳ぎ回れないでしょ」
「~~ッ!?」
目を覚ましたサハギンロードは、身動きが取れなくなっていることに気づいて愕然としている。
しかも周りを完全に取り囲まれていた。
「クハハハッ、今度こそ逃がさねぇぜぇ?」
そこから全員でトドメを指す。
さすがのサハギンロードも、もはや成す術はなかった。
「拙者の手柄ああああっ!」
いつの間に復活していたのか、最後はアカネさんが斬り飛ばしたサハギンロードの首を掲げ、大声で叫んだ。
いや、どう考えてもあなたの手柄じゃないでしょ……。
「ついに汚名返上でござる!」
「むしろ汚名を積み上げただけだよ」
そんなアカネさんのことは置いておいて。
僕たちの意識はすでに、祭壇の上に眠る美女に向いていた。
「どう見ても人形じゃないわね」
「息をしている様子はないが、かといって、死んでいるようにも見えないな」
「それにしても、これはまた素晴らしい大きさであるな……」
「……挟まれたい……」
「こらそこの変態たち」
ガイさんとディルさんの二人がその豊満な胸を評して、ハゼナさんに睨まれている。
「あれ? なんかどこかで同じようなことがあった気が……ただのデジャブ……?」
と、そのときである。
突然、祭壇が淡い輝きを放ったかと思うと、その光が眠る美女の中へ。
次の瞬間、閉じられていた瞼がゆっくりと開いた。
「「「起きた!?」」」
美しい碧眼が露わになり、美女が静かに身体を起こす。
そして不思議そうに僕たちの方を見遣ると、その唇を開いて、
「あらまぁ、こんなに大勢から寝起きの姿を見れるなんて……わたくし、とっても恥ずかしいですわ」
頬を薄っすらと赤く染め、この状況に似つかわしくない暢気な言葉を口にする。
「ええと……あなたは、何者ですか? どうしてこんな湖の底に?」
「あらあら? わたくしのことをご存じないのですか? てっきり、わたくしの力を借りるためにいらっしゃったのかと……」
「もしかして、有名な方……?」
「……なるほど。どうやらその様子ですと、まだそのときが来たというわけではないようですわね」
彼女は何かを理解したように頷いてから、
「申し遅れましたわ。わたくしの名はエミリナ。訳あって、この場所で封印されていましたの」
「封印……あっ」
とそこで、僕はあることを思い出す。
さっきのはデジャブじゃなかった。
今からちょうど一年前くらいのことだろうか。
セルティア王国の王都の地下遺跡でも、似たようなことがあったのだ。
地下遺跡で封印されていたある人を、うっかり解き放ってしまったせいで、居候として我が家に完全に住みついてしまったのである。
「あの……もしかして、ミランダさんって、ご存じですか?」
僕がその名を口にすると、エミリナさんは少し驚いてから、
「あら? ミランダもすでに目覚めているんですの?」
どうやら二人は知り合いのようだ。
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