第412話 魚は大好きでござるよ
その日、僕たちはゴバルード共和国の首都がある湖に来ていた。
湖の中心の島に首都がある関係で、今のところここの鉄道駅は湖岸の地下にある。
深い湖の底のさらに地下を経由して鉄道を通すというのが、すぐにはちょっと厳しかったせいだ。
「この湖の底に神殿があったなんて、私どももまったく知りませんでした」
驚いた様子で言うのはイアンナさん。
以前、ゴバルード共和国の使者として村に来てくれた女性で、現在も村とゴバルードの友好関係のために色々と力を尽くしてくれている。
実は今回、僕たちがこの国にやってきたのは、湖の底に神殿が発見されたためだ。
……された、というか、発見したのは僕の影武者だけど。
島まで鉄道を伸ばせるかどうかを確かめるため、マップで湖の様子をずっと調査していたのである。
そこで湖底に建物らしきものがあることに気づいて、ヴィレッジビューで確認したところ、神殿を発見したというわけだ。
そしてこの日、実際にその神殿に乗り込んで、内部を調べてみようというのである。
「ですが湖の底にある神殿を、一体どうやって調査されるのでございますか?」
「実はうちの村には、エルフたちが作った特殊なポーションがあるんですよ」
「特殊なポーション……?」
「はい。その名も、水中ポーションです」
これは飲めば一定時間、水の中でも呼吸ができるというポーションだ。
浮力も減るため、水中を歩くこともできるようになる。
影武者が調べたところ、湖底の神殿内には水棲の魔物が住みついて、ほとんどダンジョンのようになっているらしい。
そのため僕は、神殿に挑むにあたって、お馴染みの強力なメンバーたちを集めた。
……その中には、どうしても参加したいと訴えてきたアカネさんの姿も。
「今度こそ汚名返上でござる!」
「本当に大丈夫かな……魚が苦手とか言わないよね?」
「魚は大好きでござるよ!」
「それ、食べる方でしょ」
そして今回もまた、マリベル女王とガンザスさんが参戦してくれている。
「どんな危険があろうと、必ずオレが殿下を護ってみせるぜ!」
「カシム、またか……」
さらに新しい顔ぶれもあった。
「だーりん、頑張ろうね♡」
アマゾネスのチェリュウさんだ。
ノエルくんが参加すると聞いて、ぜひ自分も行きたいと同行を志願してきたのだった。
まぁ実力は確かだし、アカネさんみたいに足手まといになることはないだろう。
「だーりん、手を繋いでいこ♡」
「遠足とかじゃないからね!?」
……前言撤回、足手まといになるかもしれない。
「ルーク殿、ご無沙汰しております、ローデンです。……私のこと、覚えていらっしゃいますか?」
「あ、お久しぶりです。もちろん覚えてますよ」
彼はゴバルード共和国でも名の知れた兵士で、今回唯一、ゴバルード共和国側から参加することになったメンバーだ。
僕と面識があるのは、帝国の中枢に乗り込むとき、共和国を代表して僕たちと行動を共にした一人だからだ。
首都のすぐ近くにある神殿の調査をするのに、さすがにゴバルード共和国側の人が誰もいないというのはよろしくないということで、選ばれたのか彼だったのである。
もちろんその実力が、うちの精鋭たちにも負けないレベルにあることはよく知っていた。
「貴殿らの足を引っ張らないよう努力しなければ」
「いえいえ、むしろ百人力ですよ」
そうして僕たちは一人一本ずつ、水中ポーションを飲み干すと、僕の作った公園に乗り込む。
公園ごと湖の中へ。
アカネさんが嬉しそうに叫んだ。
「すごい! 本当に息ができるでござる! これなら泳げない拙者でも、水中を動き回れるでござるよ!」
「いや泳げないんかい」
確かに泳ぐ必要はないけど、それでよく参加を希望できたよね?
湖の底にある神殿を調査するって伝えたはずなのに……。
それにしてもかなり深い湖だ。
影武者が調べたところによると、水深は最大で200メートルにもなるのだとか。
神殿があるのは水深およそ150メートルの地点。
水中ポーションがなければ、潜ることさえ難しいだろう。
当然、光がほとんど入らない世界なので、周囲は真っ暗だ。
「くくく、暗すぎではござらぬか!?」
……さっきまでハイテンションだったアカネさんが怯え始めた。
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