第410話 強い男はいねぇがぁ
たった一人、相手が見つからない人が出てしまった。
彼女の名はチョレギュさん。
「あたいの男だけいないとか、どういうことだよおおおおおおっ!?」
「ご、ごめんね。応募者がいなくなっちゃって……」
ちょっと申し訳なくなってしまい、僕は謝罪する。
「だ~りぃぃぃん♡ だ~いしゅきぃ♡」
「ぼくも、だ~いしゅきぃ♡」
などと、周りが幸せそうにしている中、一人だけ取り残されるのは、正直なかなか可哀想だ。
ちなみに候補がゼロだったわけではない。
このチョレギュさん、今回やってきたアマゾネスたちの中でも、かなりの実力者らしく、一人で十人もの応募者を倒してしまったのである。
「だ~りぃぃぃん♡ だ~いしゅきぃ♡」
「ぼくも、だ~いしゅきぃ♡」
「うるせえええええええええええええええっ!!」
成立したカップルたちを怒鳴りつけたチョレギュさんは、血走った目で、
「男……男……どこかに、強い男はいねぇが……?」
そんなことを呟きながら、勝手に村の中を徘徊し始めた。
なまはげみたいになってる!?
「男おおおおおおっ! いたああああああっ!」
「っ!?」
そして通行人の男性に襲いかかってしまう。
「ちょっ、なんすか!?」
元盗賊の下っ端、バールだ。
「ぎゃああああああっ!?」
「ちっ、弱すぎる!」
瞬殺されてしまうバール。
一応、村の衛兵なのに……。
「……い、いきなり殴られるなんてっ……こ、興奮するじゃないっすかあああああっ、ハァハァ……」
「強い男はいねぇがぁああああああっ!?」
ドMなので喜んでしまっているバールを完全に無視し、チョレギュさんは次のターゲットを求めて走り出す。
もはや妖怪だ。
何だろう……このカオスな光景は……。
僕が思い描いていた平和な村のイメージとは、あまりにもかけ離れている……。
その後、アマゾネスたちがどうにかチョレギュさんを抑え込んでくれて、いったんは落ち着いたのだけれど、
「男男男……強い男早よ……」
うわ言のように呟き続ける彼女に、村の男性たちが引いてしまって、かえってお相手探しに難航することになってしまうのだった。
「村長……結婚、することに……なった……」
「ええええっ!? ノエルくん、チェリュウさんと結婚するのっ!?」
アマゾネス集団の襲来から数日後。
ノエルくんからの報告を受けた僕は、驚きのあまり大声で叫んでしまった。
最初あんな出会い方だったし、チェリュウさんが一方的に好意をぶつけている感じだったので、進展は難しいんじゃないかなって思ってたのに……。
「し あ わ せ ♡」
そのチェリュウさんは、乙女の顔でノエルくんに抱き着いている。
「ほ、本当にいいの、ノエルくん?」
恐る恐る訊くと、ノエルくんは恥ずかしそうに頷いて、
「……おれ……こんなに、女性から、好きになってもらったの……はじめてだから……」
どうやらチェリュウさんの猛アタックが実ったらしい。
ちなみにチェリュウさんは二十歳。
ノエルくんは僕の一つ上で十五歳なので、五歳も年上だ。
「まぁ、セリウスくんのことを考えたら、五歳くらい大したことないけど」
それにしても、セリウスくんに続いて、ノエルくんまで結婚か……。
僕と同年代の二人が、こんなに早く結婚しちゃうなんて思ってもいなかった。
「そうですね、五歳くらい大したことありませんね。なんならもっと年上の方がいいくらいかと。特に九歳くらい年上の女性がベストではないでしょうか」
なんか急にミリアが割り込んできた!?
……ちなみにミリアはちょうど僕の九歳上の二十三歳だ。
年齢を聞いても教えてくれないのだけど、以前、村人鑑定で調べちゃったからね……。
「さすがに九歳は年上すぎでしょ! 完全におばさんじゃない!」
今度はセレンが割り込んできた!?
「やっぱり三歳くらい年上が最高よ! 異論は認めないわ!」
……ちなみにセレンは僕の三つ上である。
「異論しかありませんよ、小娘」
「なによ、おばさん」
バチバチと火花を散らし、睨み合う二人。
うーん、最近は少し喧嘩が減ってきたかなと思っていたけど、やっぱり相変わらず仲が悪いみたいだ。





