第33話 健気な態度に免じて
武器なんて使ってなんぼだ。
なのにバルラットさんもランドくんも、僕が作ったと知るや、是が非でも家宝にすると言って聞かない。
仕方ないので、同じ方法で量産することにした。
まぁどのみち沢山作るつもりだったしね。
「ここは武器工房か何かか……?」
「いや、どう考えてもただの牢屋だが……」
僕がどんどん剣や槍を作り出していくので、盗賊たちは呆気に取られている。
「いっひっひっひ、次はどいつを更生施設に送ってやろうかねぇ?」
「「「ひぃっ」」」
「お前かい? お前かい? それともお前さんにしようかねぇ? いっひっひっひ」
「「「~~~~っ!」」」
おばあちゃんがいつの間にか僕が作った槍を手に持ち、盗賊たちの品定を始めた。
時々その槍を振り回しては、彼らが怯える姿を見て楽しそうに笑っている。
「よし、決めたよ。お前とお前とお前。それから、お前とお前さ」
そうして選ばれた五人は、それだけで顔色が真っ青になってしまう。
おばあちゃんに引っ立てられ、絶望の表情で牢屋から出てきた。
『な、なぁ、そこの少年』
ん? 今、何か声が聞こえたような。
気のせいかな?
周囲を見回してみるけれど、それらしき人は見当たらない。
『気のせいじゃない。俺だ、俺。牢屋の一番端っこにいる男だ』
どうやら幻聴ではなかったらしい。
言われた場所に目を向けると、そこには盗賊にしては随分とスマートな印象の中年がいた。
牢屋の隅っこで、壁に背を預けて座っている。
そう言えば、『念話』というギフトを持つ盗賊がいたんだっけ。
『俺はサテンって言うんだが、元々は名のある庄家の人間だった。だが色々あって実家を追い出され、食うに困って盗賊なんて悪行に手を染めるようになっちまった……』
急に身の上話をしてくる。
だけど聞いて少し納得した。
貴族や裕福な商人しか祝福を受けられないのに、なぜ盗賊がギフトを持っているのか、疑問だったんだ。
『今は本当に心から反省しているんだ。他人から奪って生き長らえるくらいなら、死んでしまった方がマシだったってよ……』
『……』
『罪を償うため、この村のために必死に働くことを誓う! だからお願いだ、少年! 俺をここから出してくれ!』
『……本当に反省してるの?』
『ああ! もちろんだ!』
必死に訴えてくるその盗賊に、僕は村人鑑定を使った。
サテン
年齢:34歳
愛村心:反逆
適正職業:通信士
ギフト:念話
愛村心が反逆ってなってるんだけど?
〈反逆はその名の通り、村に対して反逆的な状態であることを意味します〉
うん、全然反省してないね。
ちなみに更生を終えた(?)盗賊たちの愛村心は「低」になっていた。
これがちょうどプラスマイナスゼロの状態らしい。
『なぁ、頼むよ、少年……』
どうやらこの男、僕を懐柔して牢屋から出るつもりのようだ。
『そんなにおばあちゃんの更生を受けたくないの?』
『っ……そ、それもある……だが、それだけじゃない! 今すぐこの村のために償いたい気持ちでいっぱいなんだ!』
本当におばあちゃんが怖いんだね……。
訊いた瞬間、顔が明らかに青ざめたもん。
でも残念。
きっと僕なら騙せると思ったんだろうけど、そうは問屋が卸さない。
「ねぇねぇ、おばあちゃん」
「ん、どうしたんだい?」
「あの人がどうしても早く更生施設に行きたいんだって」
「なっ!?」
僕の言葉に、男は目を剥いた。
『てめぇ、なに考えてやがんだよっ!?』
『あ、本性あらわした』
『……っ! このガキがぁっ!』
おばあちゃんは楽しそうに口端を吊り上げ、男を見遣る。
「へえ、そいつはなかなか殊勝だねぇ?」
それから、いつものように「いっひっひ」と笑って、
「それじゃあ、お前と交換しようかね」
先ほど選ばれた一人に代わって、サテンという名の盗賊がしぶしぶと牢屋から出てくる。
「あんたの健気な態度に免じて、ひと際厳しく更生してあげようかねぇ、い~ひっひっひ!」
その様子から何かを悟ったのか、おばあちゃんは嗜虐的な笑みを浮かべた。
『さ、さっきのは嘘っ! 嘘だから! 本当に反省してるんだ! なぁ、頼むっ……頼むよ……』
男が縋るような目で念話を送って来たけれど、僕は無視してやった。
頑張ってしっかり更生されてきてね。
少しでも面白いと思っていただけたら、↓の☆で評価してもらえると嬉しいです。





