第101話 噂は本当だったのかも
「奴からの返答はまだないのかっ?」
「は、はい……何度も召集令状を送っているのですが、まったく反応がないようで……」
ラウルは苛立っていた。
というのも、とっくにくたばっていると思っていた兄のルークが、荒野に都市を築いているとの噂が、領内に広がっているのだ。
その真実を確かめるべく、荒野に近い北郡の代官に報告を求めた。
しかし最初の報告では、調査の結果、そのような事実はないとのことだった。
だが噂は一向に収まらない。
それどころか、ますます広がっているほど。
さすがにこれはおかしいと、再度の報告を求め、代官を領都へ呼び出すことにしたのだが、いつまで経っても応じる気配がないのである。
「この様子ですと、ダント代官が裏切り、ルーク様の側に付いている可能性も……」
「ちっ……代官の分際で、この俺に歯向かう気か!」
さらに彼の怒りを増幅させていたのは、噂は広がっていても、なかなかその真偽を確かめることができないことだった。
なぜならその荒野に行った者が、誰一人として帰ってきていないからだ。
それどころか、代官とは別にこちらから独自に調査団を派遣したにもかかわらず、行ったきりまるで帰ってくる気配がない。
「美味しい食べ物に快適な住居……一度行くと、二度と帰りたくなくなる……やはりその噂は本当だったのかも……」
「んなわけねぇだろが! あそこは作物もロクに育たない不毛の地だ! しかも周辺には危険な魔境がある! たった一年かそこらで、そんな街を築けるはずがねぇ!」
臣下の言葉に、ラウルは怒声を響かせた。
と、そのときだ。
ラウルの元へ、一人の見慣れぬ男が連れてこられたのは。
「何だ、その男は? 俺は今、忙しい。つまらぬ用だったら叩き斬るぞ?」
「ら、ラウル様っ……こ、この男は、北郡のダント代官の部下だったという者でしてっ……」
「なに?」
どうやら男は、代官の不正を知り、それを報告するためここまで来たのだという。
「い、命懸けでした……もし見つかれば、どうなるか分からない……それでもラウル様のため、決死の覚悟で……」
「貴様の武勇伝などに興味はねぇ。それより不正の証拠はあんのか?」
「は、はいっ、ここに……」
そう言って男が取り出したのは、代官が行った荒野の調査結果を記したものだった。
「見せろ!」
それをひったくり、ラウルは目を通す。
そこに書かれていたのは、俄かには信じがたい情報ばかりだった。
「王都のそれに勝る二重の城壁に、一万に迫る人口……? さらにはダンジョンだと……? で、出鱈目だ! 貴様、よくもこんな出鱈目を俺に見せやがったなっ?」
「ででで、出鱈目ではありませんっ! 間違いなく代官の部屋に保管されていたものですっ!」
あり得ないと断じたラウルだったが、胸の奥から不安が湧き上がってくる。
もしこれが真実だとしたら……。
危機感を覚えたラウルは、臣下に命じた。
「改めて調査団を派遣しろ! ただし今度は移住希望者にでも変装させて、秘密裏に行え!」
「は、はいっ!」
「そうだ……その中にアレを紛れ込ませろ……場合によっては、ルークの野郎を……」
◇ ◇ ◇
「ほ、本当にあったぞ……」
「しかも何だ、あの城壁は……これをたった一年かそこらで築いたというのか……?」
「こ、この街道だって異常だ……。こんなものを作り上げようとしたら、本来は何十年とかかるはず……」
荒野に敷かれた街道を進みながら、その一団は大いに困惑していた。
ここに来るまでは半信半疑だった彼らだが、あまりの衝撃にその目的を忘れてしまいそうになるほどだった。
「これをあのルーク様が……?」
「やはり、北郡の代官の報告は嘘だったのだ……っ!」
「まさかこんな街の存在を隠していたとは……す、すぐにラウル様にお伝えしなければ……」
そう、彼らはラウルが派遣した調査団だった。
「私はあの街を詳しく調査する。お前は先んじて領都に帰還し、ラウル様にこのことをご報告するのだ」
部下にそう命令したのは、熟練の諜報員だ。
過去、幾度となく敵地に侵入しては、有力な情報を入手し、アルベイル家の躍進に大いに貢献してきた。
そして時には暗殺も……。
「(……今回も手を汚すことになるかもしれぬな)」
他の調査員たちすら、そのことは知らされていない。
彼だけが直接、ラウルからの指示を受けたのだ。
と、そのときだった。
「「「……え?」」」
突如として、彼らが立っていた地面が消えた。
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