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教会務めの神官ですが、勇者の惨殺死体転送されてくるの勘弁して欲しいです【連載版】  作者: 夏川優希


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54、知恵を絞れ




「一体どういうつもりだ。ルイを魔族に差し出すなんて!」



 ユライが俺に鋭い視線と非難を浴びせる。

 まぁね、確かにヤツを騙して連れて行ったのは俺だ。でもあの時はそうせざるを得なかったんだ。

 魔族が本気になれば、一人で街を火の海にできる。

 それに、ルイは勇者だ。俺は怒り狂ったユライを宥めるように声をかける。



「まぁまぁ。無事に帰ってきたわけですし」


「“無事”!? お前は黒焦げの状態を無事と呼ぶのか!」


「いや、でも、ほら、綺麗に蘇生させましたよ。見事なものでしょう?」


「そういう問題じゃねぇ! 可哀想に、魔族にどんな酷いことをされたのか考えただけで恐ろしい。なぁルイ、もう良いじゃねぇか。無理することはないんだ。この街を出よう。勇者なんてやめたって良いんだ。王都に帰りにくいなら、二人で故郷に」



 うっ……

 俺は身構える。今ルイにいなくなられると不味いのだ。ルイがいる限り、荒地の魔族はこの街に手を出さないはず。灼熱の荒地じゃルイは生活できないし、蘇生する教会も必要だしな。

 しかし荒地の魔族が執着しているのはルイだけ。他の人間のことなど虫ケラ程度にしか思っているまい。

 ルイがいなくなれば怒って街を襲うかも。

 俺はマーガレットちゃんの耳元にそっと顔を寄せる。元星持ち勇者とはいえ、マーガレットちゃんのツタからは逃れられまい。いざとなれば、力づくでも……


 しかしその必要はなさそうだった。

 ルイが静かに首を振る。



「いいや……この事態を招いたのは俺だ。無責任に自分だけ逃げるなんてできない。それに、ロージャは今も星を諦めていない」


「ッ……」


「いつかまたロージャの胸に星を飾ってやりたいんだ。彼女がそう望んでいるから」



 ユライはバツが悪そうな表情を浮かべ、視線を足元に落とす。

 そりゃそうだ。こんな事態になったのはユライのせいなのだから。二人の星は、今もお前が持っているのか? それとも捨てちまったか?

 まぁどちらでも同じことだ。今更“俺が盗みました”なんて言って星を出してきたら、きっとルイはユライを許さないだろう。

 黙りこくるユライにかわり、ルイが口を開く。



「それに、リンはなにも俺に酷いことをしてやろうと思っているわけじゃない。悪気はないんだ。むしろ……」



 ルイはそう言って、顔を上げる。俺をジッと見上げる。マーガレットちゃんに頬ずりされ、花粉塗れにされている俺を。



「なぁ神官さん、教えてくれ。リンも俺にそういう事をするんだ。それ、一体なんなんだ?」


「……さぁ。私が聞きたいです」


「……そうか」



 俺はひそかに安堵した。

 花粉塗れでまだ良かった。あっちは火だるまだものな……





*****





『……………………』


「……………………」



 おなじみの不思議空間。おなじみのロリ。

 しかし今日のロリは喋らない。ジトッとした目で俺をじいっと見下ろしてくる。

 なので俺も負けじと喋らない。ジトッとした目でヤツをじいっと見上げる。


 分かってんだよ。どうせまた説教だろう。俺は神官だぞ。説教はされる側じゃなくてする側なんだ。

 俺は“説教をする側”であるという事実をヤツに見せつけるため、腕を組んで懸命にジト目を作る。この空間に呼び出したのはロリではなく俺なのだ。ヤツにそう勘違いさせることができれば俺の勝ちである。



『なにを言ってるんですか。勝ちも負けもありません』



 そうだった、コイツは人の心を勝手に読むプライバシーガン無視ロリなのだった……

 俺は心を読まれているという事実をガン無視することにした。キョトンとした表情で首を振る。



「なにを言ってるんですか。私はなにも言っていません」



 ロリは目をぐるりと回し、ウンザリだとばかりにかぶりを振る。



『もう良いです。貴方の口から自発的な謝罪を聞きたかったですが、期待した私が愚かでした』


「謝罪? 全く心当たりがありません。私は善良の権化です」


『魔族に勇者を差し出す神官のどこが善良なのです?』


「えぇ? おぉん……」



 俺は否定とも肯定ともとれる曖昧な相槌でお茶を濁す。

 まぁね。俺もできるなら綺麗ごとばかり並べて生きていきたかったよ。教会を燃やした魔族には腹も立つし。でも仕方がないじゃん。街一つを救うための対価が虫けら以下の命一個だったら飛びつく以外の選択肢があるか?

 だいたいさぁ、魔族に媚びるしか生き延びる術がない雑魚雑魚フィジカルに仕上げた女神さんサイドにも問題があるのでは?



『ああもう、ゴチャゴチャとうるさいですね!! なんという体たらくでしょう。あんな情けない姿を見たかったわけではありません。私は勇敢に戦う貴方たちの姿が見たいのです』



 いやいや……バケモノに立ち向かうのは勇敢じゃなくて無謀でもなくてもはや自殺だから。

 あんなのに勝てるわけないじゃんね。ちゃんと現実を見てほしいよ。



『そこを知恵と工夫でどうにかするのが貴方たち人間でしょう! とにかく、あんな情けない手は使わないでください。しっかり戦って魔物と魔族の息の根を止めるのです』



 俺は頷く。こんなとこでグダグダ話し合っていても仕方がない。俺は早く帰りたかった。



「は~い、ガンバリマ~ス」





*****





「落とし穴はどうだろう」



 勇者の一人が机の上に肘をついて両手を組み、眼鏡の奥で鋭い目を光らせる。

 そして卓上に置かれた小さな人形を手に取り、ひょこひょこ動かして即興人形劇を始める。



「ルイを木の上から吊るす。おびき寄せた魔族が助けようと近付き……落とし穴にドーン」



 小さな人形の一体が「ひゅ~」という効果音付きで机から転がり落ちていく。

 それを見ていた勇者の一人が即興人形劇を鼻で笑った。



「落とし穴だって? 子供じゃあるまいし」


「……なんだと?」



 眼鏡の勇者がギロリと睨むと、別の勇者がハッと笑う。



「そんなので魔族が殺せるものか。せめて子供の悪戯のレベルは超えてほしいね」


「例えば? 人の意見に文句言うくらいだ、さぞ良いアイデアがあるんだろうな?」



 すると言われた勇者は特に慌てる素振りもなく足を組み、椅子に背中を預けて口を開く。



「爆発だよ」



 悲しいかな。これはつまらないドッキリ企画会議ではない……

 人類の命運を左右する、魔族暗殺計画を練っているのである。

 しかし会議室で膝を突き合わせ、大の大人がうんうんと唸りながら必死に頭を捻って出てくるアイデアがこれかぁ。


 一通りアイデアが出ては却下され、出ては却下され、めぼしいアイデアはだいたい出尽くしたって感じだ。

 そういう時、突拍子もない荒唐無稽な暴論が斬新で素晴らしいアイデアに錯覚してしまうから注意が必要である。

 ひとまず、この悪質なドッキリと見紛うような案にはユライが異を唱えた。



「ふざけるな! なにが餌だ。それで魔族を一撃で仕留められれば良い。でももしダメだったら? お前らはどうせ尻尾巻いて逃げるんだろう。犠牲になるのはルイだ!」



 卓を囲んだ勇者たちからザワザワと声が上がり、互いに目線を合わせて首を傾げる。



「まぁ……それは仕方なくない?」


「自分で蒔いた種だしなぁ」



 正論だね。

 そして勇者たちにとって命は安い。自分の命すら安いのだから、他人の命などもう駄菓子以下である。ルイの生き死になど、彼らは最初から勘定に入れていない。

 この会議室ではルイを心配するユライの方が異端者なのだ。そのことを、当事者であるルイはよーく心得ているらしい。



「俺がどうにかなるのは構わない。が……普通の魔物に使うような技は俺がすでに試している。あれだけ近くにいても、俺は彼女に傷一つ付けられないんだ。そんな簡単な小細工でどうこうできるとは思えない」



 さすが、星持ち勇者は壊れかけでも冷静だ。会議室に集った勇者たちも感心しきりである。誰もルイの抱いたキツネを見ようとはしないが……

 確かに最強勇者のアイギスが奇襲を仕掛けても全く歯が立たなかったのだ。マーガレットちゃんの戦闘力を鑑みるに、束になって襲い掛かっても結果は同じだろう。


 さて、いよいよ議論は行き詰まった。

 これ以上絞ってもろくな意見が出てきそうにない。勇者たちもしきりに視線を部屋の扉に向けている。ヤツらめ、帰りたさを隠そうともしないどころか積極的にアピールしてやがる。

 かく言う俺も帰りたい……扉を見て積極的帰りたいアピールに勤しもう……

 と、その時。はからずも注目の的になっていた扉が、突如として開いた。



「まったく……目を離すとすぐこれだ。また僕は仲間はずれかい?」



 片手を仕立ての良いズボンのポケットに、もう片方の腕を支えにして扉にもたれかかる上質な変態。ハンバートである。

 また会議が長引きそうなヤツが乱入してきた……



「少し、扉の前で話を聞かせてもらったよ」



 あちこちから漏れ出るため息をものともせず、変態は会議室の中央へと躍り出る。



「ヤツらの住処に侵攻して魔族を討つのは、今の人間の力ではまず不可能だ。しかしルイ君なら魔族を誘き寄せ、そして油断させることができる。魔族を殺すのにこれ以上の好機はない。魔族なんていうのは我々にとって最強かつ未知の敵だから、すぐにとはいかないだろう。しかしいつかは……」



 変態は大袈裟な身振り手振りをまじえながらペラペラと口を回す。



「ルイ君抜きにこの計画は成立しない。しかしそれでは彼の負担が大きすぎる。魔族暗殺が一回で成功すればそれが一番だが、難しいだろう。ルイ君には複数回火炙りになってもらうかもしれない」



 ユライの表情が曇るのを、ハンバートは見逃さない。鋭い目でその姿を視界に収めながら、そうとは悟られまいとさらに続ける。



「一番の懸念材料はルイ君の精神状態だ。彼が完全に壊れてしまえば、魔族の心を繋ぎ止めておくこともできないだろう。そこで。そこで、だ」



 前かがみになり、自分の胸に手をやる。その蒼い眼がギラリと輝く。

 ヤツは秘密の告白でもするみたいに声をひそませて言った。



「その役目、僕が引き受けよう」



 長い長い前置きが終わったようだ……ようやく正体を現したな、この変態め。

 しかし勇者たちはエネルギッシュな変態に異議を唱える元気がない。

 どうせ大したアイデアも出ていないのだ。とりあえず考えてみろということで、集った勇者たちは解散になった。面倒ごとを押し付けて、勇者たちは足取り軽やかに帰っていく。

 問題は面倒ごとを押し付けた先である。


 他の勇者たちと同じく、ユライ、ルイ、そしてハンバートも会議室を出ていく。何やら話しながら三人そろって街を歩いていく。

 ……教会へ向かっているような気がするのは気のせいだろうか。




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