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教会務めの神官ですが、勇者の惨殺死体転送されてくるの勘弁して欲しいです【連載版】  作者: 夏川優希


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47、宴with処刑




 勇者たちの働きと植物モンスターの加勢により、フェーゲフォイアー防衛戦に俺たちは辛くも勝利した。

 街の塀に上って外を見渡せば、どれほどこの街が危機にさらされていたかが分かる。

 街の周囲に広がっていた草原が焼き払われ、焦げた地面が剥き出してなっている。あれがこの街にまで及んでいたらと思うと……ゾッとするね。


 いやぁ、みんなよく頑張った。

 街が無事だったのは女神の加護のお陰だ、奇跡だなんて言葉もちらほら聞こえてくる。でも俺はそうは思わないね。人間たちが殺されても殺されても立ち上がり、その栄養満点の肉で植物モンスターを鼓舞したからこそ成し得た勝利だと思うよ。もちろんその影にはせっせと蘇生に励んだ俺の活躍があったわけだけどね?

 ここはお互いの健闘をたたえて宴でもやる流れじゃない? キャンプファイヤーでも囲んでさ。

 そんなめでたい祝いの席でさぁ、どうして処刑が行われようとしているのかな?



「なにするんですか! 私なにも悪いことしてません!」



 手足を縛られ、ゴザの上に転がされながらも自身の潔白を訴えるカタリナ。しかし勇者たちは彼女の訴えをピシャリと跳ね除ける。



「黙れ! 勝手な発言は許されていない。お前にはスパイ容疑が掛かってる」


「ス……スパイ!?」



 青天の霹靂とばかりにギョッとするカタリナ。

 しかし勇者たちはそんなカタリナをせせら笑う。



「白々しい……お前、植物モンスターを操ってたろ」


「あ、操ってたわけじゃ」


「おっと、誤魔化そうったってそうはいかねぇ。目撃者が何人もいるんだぜ」



 小さくなって震えるカタリナに勇者たちが詰め寄る。



「許せねぇ……」


「あんな屈辱は初めてだったぜ」


「俺らをスナック感覚でつまみやがって」


「ち、違うんです。違うんですぅ……」



 視線泳がせるカタリナ。おっと、ヤツと目が合った。

 ……んん? なんだその顔。嫌な予感が。



「そ、それなら! 神官さんだって――」



 おっとォ!

 死にたがりが俺を巻き添えにして死のうとしている! そうはさせるか!

 俺はカタリナを取り囲む勇者たちを掻き分け、スライディングでカタリナの前に飛び出す。



「内輪揉めなど、敵の思うツボです」


「うっ……でもよぉ、神官さん」



 戦場で命を懸けて蘇生に励んだおかげか、勇者の中での俺の評価が上がっているのを感じる。

 俺は神官スマイルを浮かべ、一つ提案をした。



「あなた達が安心できない気持ちも分かります。ならば検証しましょう。皆さん、協力して下さい」



 言いながら、カタリナにニッコリ微笑みかける。

 余計な事言うなという念押しだ。しかしカタリナはどう受け取ったのか、小さく頷いて祈るように顔の前で手を組む。


 さて、祈る彼女の前に置かれる小さな鉄の檻。中で静かに目を光らせているのは、ヴェルダの森産捕れたて新鮮オバケキノコである。

 キノコと言っても、立ち上がった大型犬くらいの大きさだ。



「あの、神官さんこれは?」


「もちろん検証です」



 俺は微笑みを携え、検証の内容を懇切丁寧に教える。



「防衛戦は今までに体験したことのない混乱の中にありました。植物モンスターの参戦というイレギュラーでそれに拍車がかかったことは皆さんも肌で感じたことでしょう。色々と勘違いもあったのかもしれません。ならば魔物がカタリナの言うことを聞くかどうか、今ここで確かめましょう」



 俺の合図により、オバケキノコを閉じ込める鉄の檻の扉が鋭い音を立てて開かれる。

 のそのそと這い出るオバケキノコ。ヤツはむくりと起き上がりジッとカタリナを見る。

 ちなみにオバケキノコは雑食だが、新鮮な獲物の生きた肉を好んで食べることが知られている。


 カタリナは引き攣った笑いをキノコに向けながら言う。



「あ……き、きのこちゃん? 落ち着いて。止まって。ね?」



 キノコの歩みは止まらない。

 短い足を使って、てちてちカタリナに近づいていく。


 カタリナが縋るように俺たちに視線を向ける。

 しかし勇者は首を縦に振らない。



「……いや、もう少し見る」



 だってよ。

 意外と疑り深いな。まぁそう言うなら仕方あるまい。続けよう。

 カタリナも必死で口を動かす。



「きのこちゃん! 私食べてもおいしくないから!」



 キノコの足取りは止まらない。

 勇者たちはじっと二人の様子を眺めている。



「きのこちゃん! きのこちゃん! やめっ……」



 キノコの口が、糸を引きながらパックリと大きく裂ける。口内にびっちりと生えた細かく鋭い歯がギラリと光る。



「おお」



 カタリナを頭から丸のみにするのを見て、勇者たちはようやく納得したようにうなずいた。



「うむ……どうやら俺らの勘違いだったらしいな」


「ああ。こんな事やってる場合じゃねぇ。勝利の祝いだ、酒持ってこい!!」



 ようやく宴が始まるらしい。

 樽入りの酒がいくつも広場に運び込まれ、軽快な音楽が鳴り響き、人々は勝利に酔う。

 口からカタリナの足をはみ出させたオバケキノコをキャンプファイヤーがわりに囲みながら、勇者たちは音楽に合わせてダンスなどを踊るのだった。





*****





「おっかしいなぁ。なんで言うこと聞いてくれなかったんだろ」



 教会の中、祭壇の前でオバケキノコを眺めながら、蘇生ほやほやのカタリナが腕を組んで首を傾げる。

 張り巡らせた結界のお陰か、教会に連れ込んだオバケキノコはネズミほどの大きさに縮んでしまった。



「右へ! 左へ!」



 カタリナの言葉に合わせて、オバケキノコは短い脚でテチテチと歩く。

 唸り声を上げながら、カタリナはキノコに手を差し伸べる。



「さっきは調子悪かったのかなぁ……おいで、きのこちゃん」



 キノコは命令に従い、カタリナに近付いていく。

 指示通り掌に乗ったものの、キノコは再び口を大きく裂けさせてカタリナの指に噛り付く。



「イテテ!」



 なるほど、カタリナのお陰で色々と分かった。


 植物モンスターに命令を下せるのは、今のところカタリナと……それから俺だ。

 そして、カタリナよりも俺の命令権の方が強い。さっき勇者共の目を盗んで捕獲されてきたオバケキノコにカタリナを殺せと命令しておいた。

 するとどうだ。やめろと命令するカタリナを無視し、キノコはカタリナを丸呑みにした。


 その理由もだいたい見当がついている。俺たちは普通の人間だ。特に出生に秘密があるとかじゃない。カタリナのことは知らないが少なくとも俺はそうだ。最初から植物モンスターを従える能力を持っているはずがない。

 俺は窓から中庭を覗く。

 ……俺とカタリナだけの共通点。それはマーガレットちゃんの蜜を摂取したということ。


 俺たち人間は聖晶水で女神の加護を宿らせる。

 マーガレットちゃんの蜜にも、それと似たような働きがあるのではないか。つまり、あれを口にした者に魔物の指揮権の一部を与えるとか。

 それなら植物モンスターが俺の命令を優先する理由も説明がつく。俺の方が多く蜜を摂取しているからだ。


 魔物を従えているのは魔族だ。シアンはマーガレットちゃんを兄と呼ぶ。マーガレットちゃんもまた魔族なのだろう。現在植物モンスターたちを従えているのはシアンだが、ヤツは少し休むとか言っていた。

 本来はマーガレットちゃんが魔物たちを導くべきなのだろうが、あいにくマーガレットちゃんは教会から出られない。

 だから俺たちに指揮権を与えた、というのはどうだろう。


 まぁ、確たる証拠があるわけではない。

 マーガレットちゃんに聞こうにも、彼女は喋れないからな。


 それにしても……



「さぁきのこちゃん? この鍋に飛び込んで? 大丈夫、すこしダシを取るだけだから……」



 さっき自分を食い殺した魔物を今まさに食おうとしているカタリナ。コイツらの食物連鎖は従来のピラミッド型ではなく輪になって循環しているらしい……その様子を横目で見ながら、俺は嘆息する。


 力を与えられたのが俺とカタリナってさぁ、マーガレットちゃんの人選はいったいどうなってんの? 人を見る目がないってレベルじゃねぇぞ。他にもっといたでしょ、アイギスとかさぁ。

 まぁ今更嘆いたところで仕方がない。

 俺はキノコスープを作ろうとしているカタリナの肩にポンと手を置く。



「ちょっと森にいって植物モンスターたちの様子を見てきてください。そしてサボっているようなら、ちゃんと荒地の魔物と戦えって指示出してきてください」


「えっ、なんで私が」


「仕方ないじゃないですか。貴方にしか頼めません」



 俺は神官スマイルで自分の表情を覆い隠す。

 カタリナは怪訝な表情で俺をジッと見たものの……結局、大人しく森へ向かってくれた。


 俺はホッと胸を撫で下ろす。

 人選に不満がないわけではないが、文句も言っていられない。この力を持っている人間がもう一人いて、それが勇者であったことに感謝をすべきだろう。


 植物モンスターはカタリナの指示に従う。従うには従うが……どうもカタリナに危害を加えないというわけではないらしい。むしろ命令に反さない範囲で、積極的に攻撃を加えようとしているように見える。

 ま、考えてみれば当然だ。ヤツらから見れば俺たちはマーガレットちゃんの威を借りて偉そうに命令しているいけ好かないヤツに過ぎない。

 俺たちだって急に現れた謎の魔物が女神の力かなんかで命令してきたらムカつくし、隙があれば殺そうと考える。


 だから俺はこの力をできるだけ使わないし、能力を持っている事すら隠し通すのが理想だ。

 頼んだぞ、カタリナ……骨は拾ってやるから。




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