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教会務めの神官ですが、勇者の惨殺死体転送されてくるの勘弁して欲しいです【連載版】  作者: 夏川優希


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36、第一回フェーゲフォイアーガールズコレクション



 まさに祭りだ。


 見渡す限りの人、人、人。

 需要を見越して集まった出店の数々。立ち上る良い匂い。

 そして祭りの中心にはド派手な特設ステージ。こりゃあ金が掛かってるな。



「始まりました、第一回フェーゲフォイアーガールズコレクション!」



 ステージの上で声を張り上げるのは武器防具連合会会長の弟子、アルベリヒだ。

 イベントの主催が武器防具連合会なので、そのメンバーかつ一番若手のアルベリヒが選ばれたのだろうが……普段は寡黙な武器職人なのに、無茶しやがって。

 薬でもキメたのかと疑いたくなるほどのハイテンションでイベントの詳細を説明していくアルベリヒ。


 女勇者たちが美しさと強さを競い合うのがこのイベントの趣旨である。

 華美な武器防具は値段も張るからな。売上アップを期待した武器屋と防具屋の欲が透けて見えるぜ。

 美麗な女勇者たちが見れるとあって、ステージの周りは目を皿のようにした男たちが集まっている。まるで砂糖菓子に群がるアリだ。浅ましい事この上ない。


 しかし女勇者たちもメリット無しで男たちの視線に身を晒すわけではない。優勝者には賞品が出るようだ。



「集まってくれてありがとう」



 司会のアルベリヒにかわり、ステージの真ん中で声を張り上げるのは宿屋のババアである。

 良く響く重低音だ。誰に指示されたわけでもなく、自然と観客たちも静かになりババアの声に耳を傾ける。



「こんな年寄りが長々喋っても退屈だろうからね。手短に済ませるよ。さて、みんなが一番気になっているのは優勝賞品だろうがね」



 ババアは皺だらけの顔をニイッと歪ませる。



「このババアが恋のキューピッドとして一肌脱ごう。アタシの持つ情報・権力・財力すべてを使ったサポートがFGCの優勝賞品だよ。張り切ってやってくれ」



 壇上に控えていた参加者たちがワッと歓声を上げる。

 ……なるほど。ふざけた言葉に聞こえるが、ババアが言うと説得力が違う。なにせババアの権力は凄まじい。神に祈るよりババアに祈ったほうが役に立つまであるからね。


 まぁ参加者でもない俺には関係ない……と言いたいところだがそうでもない。

 ステージ上で一際目立つパステルカラー。ひっ……こっちを見ている?

 ドレスのような華美なワンピースを纏ったリエールが、ステッキを手に舌なめずりをしている。

 生きた心地がしないぜ……。



「神官さん、アイギスに銀貨二枚!」


「あいよ」



 俺は銀貨を受け取り、籠の中のチケットを客に渡す。

 ふむふむ。やっぱり一番人気はアイギスだ。まぁ妥当だな。

 いつもより小綺麗な格好をした女勇者がランウェイをかろやかに歩いていく。そろそろ締め切るか。



「神官がギャンブルの元締めやってんなよ……」



 ランウェイの警備をしていたルッツが呆れたように声を上げる。

 どうやらタダ飯を餌にババアに連れてこられたらしい。

 俺は吐き捨てるように答える。



「うるせーな。ババアに許可は貰ってるよ。良いだろ、どうせ後始末は俺がやんだから。これくらいの旨味がないとやってられねーよ」


「後始末ってなんだよ」



 首を傾げるルッツ。

 おめでてーヤツだ。ただ女が可愛い格好してキャーキャー言われるだけのイベントだとでも思ってんのか? ここは王都じゃねぇ。悪名高きフェーゲフォイアーだぞ。



「あっ、見ろよ。こっちに手振ってる娘がいんぞ。お〜い」



 おっカタリナじゃん。

 ランウェイを歩くカタリナがこちらを見て大はしゃぎで手を振っている。真新しいローブなんて着込んで、ウキウキだ。

 でもよそ見なんてしてたら危ないぞ。

 ああ、ほら言わんこっちゃない。

 ランウェイから舞台に戻ったカタリナが首を刎ねられて死んだ。



「え……ええーっ!? いま舞台の上で平然と殺人が行われたんだけど」



 なにを騒いでるんだお前は。

 俺は呆れながらルッツに視線を向ける。



「当たり前だろ。これは女勇者の美しさと強さを競ってんだぞ。戦いはもう始まってんだ」


「だからって商店街のイベントで実戦やらなくても……良いじゃん腕相撲とかで。っていうかもう美しさ関係なくない?」


「腕相撲で強さなど測れないし、強さこそ美しさだ。少なくとも勇者の世界ではそうだ」


「マジか……戦闘民族じゃん……」



 なにを今更、分かりきったことを。

 これは女勇者のプライドをかけた戦い。お祭り感覚で参加したカタリナのようなパッパラパーは生き残れない。


 女勇者たちのキャットファイトに観客たちも狂喜乱舞、あるいはドン引きである。いや、猫じゃなくて獅子だなこりゃ。

 女勇者の痴態を見るために駆けつけた男たちは皆一様に青ざめてる。

 プロレスならともかく、武器アリの実戦にエロさなど皆無。ポロリはポロリでも首ポロリだからね。仕方ないね。


 立っている者は徐々に減り、かわりに血と肉片と棺桶が舞台に溢れる。

 女勇者蠱毒は順調に進み、最後に残ったのは下馬評通りアイギスとリエールだった。


 舞台の上で剣を構える死神騎士。幾人もの勇者を葬り去った剣は血に塗れ、白銀の鎧も輝きを失っている。

 対するリエールの服は綺麗なものであった。あまり戦わず体力を温存していたか、あるいは攻撃方法の違いによるものだろう。リエールの周りにはパステルカラーのくまさんが無数に浮いている。カワイイのは見た目だけ。手に持っているのは種々の刃物だ。


 先に仕掛けたのはアイギスである。

 リエールの手のうちなど誰にも分からない。一気にけりをつけるつもりだ。

 甲冑を纏っているとは思えない動きで血まみれの壇上を駆け抜けるアイギス。リエールは動かず、くまさんたちが動いた。

 襲い来る無数のくまさんをものともせず、アイギスは突き進む。剣を小刻みに動かして的確に頸動脈を狙い襲い掛かってくるぬいぐるみを切り裂く。

 この程度の小細工でアイギスの動きは止められない。


 しかし……なんだか胸騒ぎがする。

 どうしてこんなに堂々としている。焦りが全く見えない。

 アイギスが出場することは分かっていたはずだ。なんの対策もしていなかった? リエールが?


 考えが纏まるより早く、リエールの懐にアイギスが潜り込む。刃がギラリと光り、流れるような動きでリエールの首に食い込む。

 ふわり、とリエールの首が落ちた。

 アイギスが目を見開く。当然だ。リエールの首から零れ落ちたのは、血ではなく綿だったから。



「あっ……!?」



 首のなくなったリエールがアイギスに抱き着く。



「くっ、小癪な――」



 次の瞬間、俺たちはリエールの本気を目にした。

 仮設ステージの上で、リエールの体が爆発したのだ。腹の中に爆弾でも仕込んでいたか。小規模ではあるが、それなりの威力だ。仮設ステージが揺れ、客席にいる俺らの頬を熱風が撫でる。

 しかしあれではリエールだって無事では済まないはず……


 いや、俺の心配は無用だったようだ。

 宙を浮いていたぬいぐるみの一体がみるみる大きくなっていく。

 ――着ぐるみだ。クマの着ぐるみを着たリエールが壇上でぺこりと頭を下げる。

 本体だと思っていたリエールこそ囮、ぬいぐるみだったのか! こんなのアリかよ。本当、アイツだけ強さの種類が違うんだよ……。


 リエールが手を振りながら俺を見下ろして舌なめずりをする。ひえっ……

 だがな、リエール。勝ったと確信するのは早いぜ。



「あっ……?」



 リエールがキョトンとして、そして視線を落とす。

 着ぐるみを突き破る剣先、パステルカラーの毛皮が血に染まっていく。ダメ押しとばかりに、剣先がぐるりと回って内臓をえぐる。

 リエールの背後で、アイギスが燃え上がるような笑みを浮かべている。片腕が肩から吹っ飛び、わき腹がえぐれている。もはや虫の息というか、生きているのが不思議な状態だ。

 リエールも不思議に思っているに違いない。

 自分の腹を貫く剣とアイギスを見やって怪訝そうに首を傾げると、そのまま受け身も取らず仮設ステージに崩れ落ちた。

 最期まで、自分の身に何が起きたのか分からなかったに違いない。それは俺たちもそうだ。

 壮絶すぎる戦いに、客席は熱狂を通り越して静かになっている。


 そして、アイギスにも限界が訪れた。

 最期まで床に膝をつくことはなかった。剣を杖にし、立ったまま、眠るように目を閉じるアイギス。

 全身を光に包まれていくアイギスの姿は、まるで戦場に舞い降りた戦乙女である。


 アイギスが消えてからようやく、我に返ったように司会のアルベリヒが声を張り上げる。



「そ……壮絶な戦いが今、幕を閉じました! 優勝は――」



 その時だった。

 仮設ステージに積み上げられていた棺桶が優勝発表に待ったをかけたのだ。

 勢いよく棺桶の蓋が蹴破られる。あれは……早々に死んだカタリナの棺桶?

 しかし出てきたのはカタリナではない。

 鳶色の長い髪を風に靡かせた少女だ。レースをふんだんに使ったワンピースは、カタリナのものであろう血で赤く染め上げられている。

 誰だ? あんな娘いただろうか。しかしどこかで見たような気も。



「おっと、生き残りがいた! 棺桶の中で息をひそめて竜と虎がつぶし合うのを待っていたのか! でも可愛いからOKです!」



 親指を立てるアルベリヒ。お前マジで薬キメてね?

 む? 見慣れぬ少女が俺を指さし、凶暴なまでの笑みを浮かべる。



「指が動かなくなるまで付き合って貰いますよ……神官様!」



 ざわつく会場。ヤク中疑惑のある司会が下手な口笛を吹く。



「情熱的な宣言だ!」


「クソッ、なんでお前ばっかり……」



 指をくわえてこちらを睨むルッツ。

 だが、そうじゃない。違うんだ。あいつは。



「では勝利インタビューと行きましょうか。お嬢さん、お名前は?」



 少女はひらひらのスカートを軽く持ち上げ、膝を折り曲げてお辞儀する。

 ……ルール違反者のくせに、堂々としたものである。フェーゲフォイアー“ガールズ”コレクションだっつってんだろ。


 優勝者は胸を張って自身の名前を観客たちに告げた。



「オリヴィアです」



 その後マーガレットちゃんに繰り返し突っ込んでいくオリヴィエを指が動かなくなるまで蘇生させられた。




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