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教会務めの神官ですが、勇者の惨殺死体転送されてくるの勘弁して欲しいです【連載版】  作者: 夏川優希


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34、SOS




 教会には日々、迷える子羊が悩みを胸に駆け込んでくる。

 今日の子羊達は黒衣に仮面と、なんとも怪しげな恰好をしていた。

 悪の組織じみた格好をしたそいつらは、見た目に似合わぬ情けない声を上げる。



「助けてくださいよぉ神官さん。もうアイギスさんの機嫌が悪くて悪くて」


「この前の泥棒事件、俺たち全く役に立たなかったじゃないですか」


「しかも手柄をかっさらっていったのがリエールさんだったもんだから、もうブチ切れですよぉ。助けてくださいよぉ」



 見回り中、ロージャの術にはまってまんまと眠りこけてしまった秘密警察の面々が俺に追い縋ってめそめそしている。全く、情けないことこの上ない。

 お前らの不甲斐なさには俺も辟易するよ。そんないかにもな服着てるくせに今のところ成果ゼロだからね? 恥を知れ恥を。

 だが、まぁ相手が悪かったとは思う。


 アイギスは強い。それは彼女が持っている剣のようなまっすぐな強さだ。

 真正面から切り込むには適しているが、時には飛び道具や暗器のような強さも必要である。戦場がいつも広大な平地で、互いに名乗りを上げて戦いをおっぱじめるとは限らないのだから。

 俺は縋ってくる秘密警察の手を一つ一つ丁寧に離し、力なく笑う。



「分かりましたよ。アイギスには今度話をしますので今はお引き取りを。これから少し用があるので」



 俺はそう言って、視界の端に捉えた巨大な炭を見やる。


 ――――欲しい。暗器のような強さが。





*****





「“荒地”にまでいったのですね。あそこは気性の荒い魔物が多い。行くにしても一人じゃない方が良いですよ。とはいっても、お仲間はまだ勾留中でしたか」


「……ええ。まさか彼女があんなことをするとは。俺も驚いています」



 黒焦げ炭死体から復活を遂げたルイは弱々しい苦笑を浮かべ、白々しい言葉を吐きながら視線を落とす。

 くくくっ、お前の企みなど分かっている。俺はヤツに優しい微笑みを向ける。



「あんな大袈裟な真似しなくても、私のことなら自由に調べて良いんですよ。なんでも聞いてください。どこでも調べてください。腹を割って話しましょう」



 ルイの顔から作り物の笑みが消える。

 リエールはロージャが教会に侵入しようとしたところを撃退したと言っていた。事実、彼女の証言のおかげで犯人逮捕に至ったのだ。

 ヤツが最初に教会に侵入しようとした理由――金目当てな訳はない。俺の身辺を嗅ぎまわっていたのだ。

 思えば、マーガレットちゃんに気絶させられて星を失ったあの狂気の夜も教会への侵入を試みている最中だったのだろう。

 それを隠すため、金目当ての犯行に見せかけてリリーに罪をおっかぶせたってとこか。

 まったく、やり口があくどいぜ。

 だがそれが良い。

 俺はヤツの顔を覗き込んで肩に手をやった。



「私達がいがみ合っていても仕方がないでしょう。あなたがどう思っているかは分かりませんが、私が正真正銘の神官で、勇者のために身を粉にして働いているというのは変えようのない事実。第一、私が本当に偽物なら蘇生魔法など使えない。あなたの事だって蘇生させてみせたじゃないですか」



 一呼吸置き、ルイは息を吐くようにふっと笑う。



「最初からあなたが魔物だとは思っていません。少し揺さぶってみただけです」


「それでナイフまで向けて様子を見たんですか? 神官相手に? ……面白い人ですね」



 ふふ……ふふふふ……

 笑いが止まらん。俺は思わず舌なめずりをする。

 アイギスとはまた違うタイプの優秀な人材。欲しい……ぜひとも手元に置きたい。


 俺は女神像(大)を見やる。

 女神像の眼がほのかに発光している。抜け目ないな。素晴らしい。

 俺はルイを見据えて言った。



「今、仲間に私の部屋を調べさせていますね? 本当に恐ろしい勇者だ。転んでもただでは起きないということか……いや、まさかここへ来たのも計画のうちなのかな?」


「なんのことです」



 くく、しらばっくれるか。悲しいね。まだ信用されていないということだろう。

 俺はルイの肩に腕を回し、ヤツの顔を覗き込む。



「罠を設置しておいたのでね。部屋に人が入ると分かるようになっている。いやいや、構いませんよ。自由に調べてくださいと言いましたから」



 しかしルイは怪訝な表情のまま、首を傾げる。



「……いや、本当に調べてないです。ロージャはまだ勾留中ですし……」


「えっ。いやでも確かに」



 俺は自室に通じる扉に視線を向ける。

 扉に付いたすりガラスの小窓を、人影がすいっと横切った。



「どうしたんですか」



 ルイの声がどこか遠くに聞こえる。


 ガチガチガチガチ……


 歯がひとりでにビートを刻む。頭の中で警告音が鳴り響く。

 そんな俺に、ルイが面倒くさそうな視線を向ける。



「なんでも俺たちのせいにしないでください。あ、ほら手を振ってますよ。奥さんですか? えっ、ちょっと、イテテ、なんですかもう」



 俺は恐怖のあまりルイに抱き着き、激しく震える。

 小窓の向こうに見える、パステルカラーの髪……


 俺はたまらず悲鳴を上げる。



「お願いです! 助けてください!!」


「は?」




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