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教会務めの神官ですが、勇者の惨殺死体転送されてくるの勘弁して欲しいです【連載版】  作者: 夏川優希


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18、マーガレットちゃんと仲良くなろう




 いい天気だ。

 たまには日の光を浴びないとね。

 俺は裏口に出て大きく伸びをする。裏庭に咲いていたマーガレットちゃんと目が合った。俺は慌てて目をそらす。


 ……帰ってきてからマーガレットちゃんとちょっと気まずい。


 マーガレットちゃんじゃなくてマーガレットくん疑惑あるし……そうじゃなくてもマーガレットちゃんの謎行動が触手花粉プレイだと分かった今、近付く気にはなれない。

 しかし教会内に戻ろうとした足を、俺は止めざるを得なかった。


 女神像だ。

 マーガレットちゃんの触手が女神像(小)を掴み、ひらひらと左右に揺れる。


 なっ、なぜそれを。それは昨夜、俺が部屋に持ち込んだはず。

 俺の部屋までマーガレットちゃんが入ったというのか? 馬鹿な、さすがの触手もそこまでは伸びないはず……いや、いまはそんなことより女神像(小)だ。



「返して! 返してください! それがないと身を守れないんです」



 俺は我を忘れて女神像(小)に手を伸ばす。

 はっ、しまった。目前に迫った触手に、俺は成すすべなく拘束される。

 あとはいつもの流れ作業だ。

 抱擁され、頬ずりされ、花粉をなすりつけられる。もう慣れたものだ。

 いや、今日はいつもと違う。

 マーガレットちゃんが俺の頬を鷲掴みにする。なんだ? 今日はいやに激しいな。俺のヒヨコのごとく尖ったキュートな口に、おもむろに指を突っ込む。

 え? 本当に何? 新しいプレイ?

 抵抗しようにも俺の貧弱な力でどうこうなるわけもないので、とりあえずマーガレットちゃんの花弁を数える。


 しかし十数えるより早く、俺の口内に異変が起きた。

 俺はカッと目を見開く。

 何か流し込まれた! 口の中に広がる。喉を焼く。ドロリとした甘さが。



「うっ、うう……!」



 身をよじろうとするが、マーガレットちゃんのツタは全く動かない。躊躇いも容赦も見えない。どんどんどんどん喉に流し込まれる。むせることすら許されない。

 甘さが胃の中に到達する。俺はたまらず叫んだ。



「うめぇ!!」





*****





 くそっ、マーガレットちゃんめ。卑劣な真似を。つい吸っちまったぜ。


 こんな辺鄙な田舎じゃ甘味は貴重だ。

 マーガレットちゃんめ。俺が近づいてこないからって、餌付けのつもりか。だが有効な手だ。

 蜜の誘惑に負けないように気を付けなくては。あと女神像をきちんとしまっておかないと。

 いざという時これがないと自分の身を守れないからなぁ……

 俺は女神像の足を両手でつかみ、ブンブンと素振りをする。


 ん?

 視界の端に転がる死体。オリヴィエだ。

 まーたマーガレットちゃんにちょっかいかけたな。

 ちょちょっと蘇生してやると、オリヴィエは生き返るや否やギリギリと歯を軋ませる。



「僕と神官様のなにが違うっていうんですか。なんで僕を受け入れてくれないんだ」


「まぁ……無理に花弁とか触らないほうが良いんじゃないですかね」


「だって我慢できないんですもん。それに! あの子を育てたのは僕ですよ。種を植えたのだって……そりゃ、仕事が忙しくて顔を見せられないときもありましたけど」



 ペラペラしゃべりながら、オリヴィエはハッと目を見開く。



「そうだ、水やり。毎日水をあげてたのは神官様ですよね。犬とかも餌をくれる人間に懐くし……」



 オリヴィエがじょうろを手に立ち上がる。

 水で満たしたそれを抱え、オリヴィエはマーガレットちゃんに突っ込んでいく。



「待っててマーガレットちゃん! 今栄養たっぷりの水をあげるよ!」



 オリヴィエの言葉通りになった。



「これは見事な……」



 虹だ。虹が空にかかっている。

 マーガレットちゃんも降り注ぐ雨を全身に受け、どこか満足げな表情。

 良かったな、オリヴィエ。

 俺は転がったオリヴィエの首を拾い上げる。ああ、今のお前すごい良い顔してるよ。ほら見ろ、お前の勇姿を。

 俺は光を失ったオリヴィエの目を、噴水の如く血を巻き上げるオリヴィエの体に向ける。


 晴天の中、降り注ぐ血の雨。

 栄養たっぷり、赤い命の水がマーガレットちゃんの頬を濡らした。





*****





「やっぱダメですってぇ」


「いいえ、諦めません!!」



 オリヴィエは意固地になっている。

 何を血迷ったか、ヤツは暖炉から灰を掻き出し頭からかぶった。



「神官さん、その服貸してください」


「え? 何する気ですか」


「良いからよこせぇッ!」


「イヤァッ!!」



 オリヴィエは追い剥ぎの如く俺の神官服を引っぺがす。

 血に濡れてずっしり重くなったそれを、厭うことなく身に纏った。



「なんなんですか、もう。それにしても酷い格好ですよ」



 髪は灰で真っ白。体中から血を滴らし、目だけが負のエネルギーでギラギラ輝いている。



「変装です。神官様ソックリでしょ?」


「はっ? 私? はっはっは、なにを馬鹿げたことを。ぜーんぜん似ていないですよ。私はそんな負のオーラを纏ってはいません。サイズ感も違うし」



 オリヴィエ少年の頭をポンポンと叩く。

 だがオリヴィエは本気だった。

 あーあ、また無駄な蘇生をさせられる。俺はオリヴィエの最期の時を見るため、共に裏庭へと足を運ぶ。



「いくよマーガレットちゃん……」



 オリヴィエの表情が変わる。

 背筋を伸ばし、ちょっとだけつま先立ちをして、ゆっくりとマーガレットちゃんに近付いていく。

 神官服引きずってるぞ。まったく、こんな雑な変装で……んん?


 マーガレットちゃんがツタを伸ばす。

 しかしこれまでの激しい動きではない。対象への殺意を感じない。素早いが、割れ物でも扱うかのような優しい動き。

 えっ、マジ? こんなのに騙されちゃうのかマーガレットちゃん。そんなに似てるかなぁ。ショックだわぁ……。



「マーガレットちゃん……僕を受け入れてくれ!」



 翼を広げるように両手を上げるオリヴィエくん。

 やっぱ似てねぇだろ!


 さすがにマーガレットちゃんも気付いたようだ。表情に乏しいマーガレットちゃんがその目を大きく見開いた。触手の動きもピタリと止まる。



「マーガレットちゃん?」



 首を傾げるオリヴィエくん。

 次の瞬間。オリヴィエくんの体が四散した。



「エシッ!!」



 ツタに握りつぶされ、内臓を散らしながらコンパクトに折りたたまれるオリヴィエ君。地面に叩きつけられた彼を、マーガレットちゃんは執拗に叩きつぶした。

 本来感情を持たない植物に近い存在であるマーガレットちゃんをここまで怒り狂わせるとは。オリヴィエ。君は俺なんかよりよほどマーガレットちゃんの心を揺さぶる存在だよ。



「おや?」



 マーガレットちゃんの視線が俺を捉える。

 俺の動体視力では追えない動きでツタが伸び、気付くと体が宙に浮いていた。

 いつもと違う乱暴な扱い。

 感じる重力。腹の中で内臓が偏るのを感じる。


 マーガレットちゃん? 俺だよ。神官さんだよ。神官服着てないけど。

 意識が飛びそうだ。

 マズい、あんなふうになったら……俺は四散したオリヴィエの欠片を霞む視界に捉える。オリヴィエと違い、ああなったら俺は終わりだ。あとは土に還るほかない。

 っていうかマーガレットちゃん、俺のこと服で認識してたの? ちょっとショックだわ……


 マーガレットちゃんの顔が迫る。

 目を細め、俺を見ている。俺だ、俺だよマーガレットちゃん。

 声が出ないので視線でアピールする。

 マーガレットちゃんが目を細める。眼鏡を外したメガネっ娘が如くだ。

 マーガレットちゃんが俺の顔をガッと掴む。

 死ぬのか、俺……?


 意識の飛びかけた俺を、刺激的な甘みが一気に現実へ引き戻す。

 喉に流し込まれる、焼き付く甘み。

 俺はカッと目を見開いて叫ぶ。



「うめぇ!」





*****





 腹タプタプだよもう。

 なんだったんだ。間違えて乱暴に扱った事への謝罪か?

 蜜でご機嫌取りだなんて、マーガレットちゃんも子供っぽいところがあるな。俺は口周りをベロベロ舐めながら教会内へ戻る。



「あああああぁぁぁぁあああああッ!」



 ステンドグラスを震わせる慟哭。

 煌めく白銀の鎧が汚れるのも構わず、神官服を纏った肉塊を抱く。



「神官さん……神官さああぁぁぁぁん!!」



 お前もか。

 俺はアイギスさんの肩をちょんちょんとつつく。



「どうしたんですか」


「あ、あれ?」



 アイギスは肉塊と俺を交互に見る。ややあって、彼女は恥ずかしそうに肉塊をカーペットに叩きつけた。



「失礼……ええと、なんだっけ。あっ、大変です神官さん!」



 アイギスは凛とした騎士の顔を取り戻し、深刻な声色で告げる。



「魔物に動きがありました。……報復です」





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― 新着の感想 ―
[一言] これ実質………だよね。
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