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教会務めの神官ですが、勇者の惨殺死体転送されてくるの勘弁して欲しいです【連載版】  作者: 夏川優希


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15、森林伐採じゃい!!!一方そのころ神官さんは





 哀れなモルモットの犠牲の上に、シダーの毒粉に耐性を付ける“シダープロテクトポーション”は完成した。

 原料は俺が体を張って採取したマーガレットちゃんの花粉から抽出したエキス、それから副作用防止の気付け薬を度重なる実験から編み出した最高の割合で配合した教会オリジナルポーションである。

 それでも何人か蘇生するハメになったが、まぁ俺のポーションの功績に比べれば微々たる問題である。なんせほとんどの勇者たちがシダーと戦える程度にまで毒粉への耐性を得たのだから。


 そして復讐に燃える勇者たちは、憎悪の炎を纏わせた松明と武器を手にヴェルダの森へシダー狩りに出かけた訳である。

 この辺りの勇者のほとんどが参加する大規模作戦だ。



「嵐の前の静けさだな……」



 いつになく人気のない教会。

 今頃勇者たちがヴェルダの森への侵攻を開始しているころだろうか。

 今のうちに教会の掃除でもしようかな。いや、ダメだ。どうせすぐ血塗れになるんだから。

 飯でも食っとくか。始まったらそれどころじゃなくなるからな。



「おうおう、のんきなもんだな神官さんよぉ」



 俺の食事を邪魔する不届き者がズカズカと教会に足を踏み入れる。



「お、モルモッ……グラムくんじゃないですか」


「変な言い間違えしてんじゃねぇ! チッ、本当ムカつく野郎だぜ」



 グラムは斧を担いだまま、いかにもチンピラな足取りでこちらへ近付いてくる。



「どうしたんです。あなたは作戦に参加しないのですか」



 グラムは担いだ斧の柄で肩を叩きながらいつになく悠々と歩く。



「あの軍人女……アイギスだったか。ヤツが今回の大規模作戦のリーダーだ。アイツ王国騎士団上がりの勇者なんだってな。やっぱ高貴な血筋のお方は出来が違うってもんだ。今ごろ勇者率いてヴェルダの森へ向かってるだろう」



 ん? なんで今アイギスの話が出るのかな?



「で、グラム君は一体どうしたんですか? 皆が頑張ってるのに、おサボりはダメですよ?」


「へへ。こんなチャンス、みすみす見逃せるかってんだ。今までよくもやってくれたな。もう蘇生費とかツケとかどうでも良い。テメーをぶっ殺す」


「……いいですかグラム。復讐は何も生みません」


「今更聖職者ぶったこと言ってんじゃねぇ!」



 いや、聖職者なんですけどね。

 なんて言う暇もなく、グラムが斧を振りかぶって襲い掛かってくる。

 ヤベェよヤベェよ……武器持ちの勇者と素手の神官とかもうお話にならねぇ。

 殺される! 死にたくない! やめてくださいグラムさん! 靴でもなんでも舐めますからぁ!



「…………クク、なんて言うと思ったか」


「ああ!?」



 俺は女神像(大)の纏った布の中に手を忍ばせる。

 ぽちっとな。



「あ゛っ……ああぁぁ」



 グラムの悲鳴が吸い込まれるように落ちていく。

 ククク、俺が貴様ら野蛮なチンピラ勇者への対策を怠るわけないだろう。

 ヤツが無様に落ちていった落とし穴の底は勇者たちが不法投棄していった武器等をあしらった剣山。


 さて、物言わぬ串刺し死体にクラスチェンジしたグラム君にはしばらく穴の中で大人しくしていてもらうこととしよう。

 アイギスが帰ってきたらきつ~いお仕置きをお見舞いしなくては。なにせ俺を殺そうとするのはこれで二度目。優しい神官さんも流石に激怒ですよ。


 さて、神罰下したら腹が減ったな。今日はトマトパスタにしよう。


 俺はキッチンへ向かうべく踵を返す。

 何かがぬるっと俺の足首を掴む。見ると、床から血まみれの腕が生えていた。

 魔物かな?



「しょせんは神官だな。死に損ないの獲物ほど危険なものはないんだぜ」



 俺は目を見開いた。穴から這い出たグラムが口元をひん曲げるようにして笑っている。

 なぜ生きている!

 いや、もう時間の問題だ。

 出血が酷い。動きを見るに脚もほとんど動かないか、あるいは既に千切れて穴の底にあるかだ。

 それでも、ヤツの顔に恐怖の色など見えない。

 こいつ死に慣れてやがる!



「……無理しないで下さい。本当に死んでしまいますよ」


「テメェが殺そうとしたんだろうが!」


「神官殺しは大罪です。勇者の資格も剥奪されて、あなたが蘇生されることも永遠にありません。でも、今なら私がちょちょっと治してあげます。ね? 手に持っているものを捨てなさい」


「うるせー! 殺す!」



 ダメだ、こいつバカだ。

 嫌だ! 死ぬのはもちろんだけど、グラムと心中ってとこがスゲー嫌だ!


 焦点の合わない目で俺を見ながら、グラムは斧を振り上げる。

 マズイマズイマズイマズイ!

 足を振り払おうとめちゃくちゃに暴れるが、当然のように組み伏せられる。

 力でも敵わない、言葉も通じない。

 せめて武器があれば……


 そうだ! 女神像(小)、女神像(小)だ!

 手に馴染んだアレならば。どこだっ、どこにある!

 ……あっ、キッチンだ。漬物石にしてる。



「死ねええぇぇッ!」



 響き渡る怒声、振り上げる斧。

 熟れた果実が落ちるように、胴体から首が転がり落ちる。


 俺は目を見開いたグラムの生首から、彼の背後に佇む女へ視線を移す。


 助けられた?

 ……いいや。



「お前が神官?」



 背中に生やしたカラフルな羽根がステンドグラスのように輝き、神々しさすら漂わせている。

 しかし、ヤツの目。黒い眼球に浮かぶ金色の瞳……人間じゃないのは確かだ。人間じゃないなら、じゃあ一体なんだって話になる。

 察しがついてないわけじゃないけど……でも認めたくないなぁ。変なコスプレした頭おかしめの人だったら良いのになぁ。



「馬鹿ばかりだ」



 女が冷めた目であたりを見回す。

 どこかで見たような気がする顔だ。やっぱアレかな、どっかの勇者がコスプレしてるのかな。



「ここがどんなに重要な施設か、誰も理解していない。ここを神官たった一人に任せている人間も、今までここを襲撃してこなかった他の連中も」



 ああ……これはマズイな。

 俺は地面を蹴って駆け出した。裏口から庭へと飛び出る。

 と同時に背中に走る鋭い痛み。

 衝撃に耐えられず、つんのめって地面に転がる。



「お前たち鬱陶しいんだよ。殺しても殺しても蛆虫みたいに湧いてきて人の庭を踏み荒らす。ここを潰せば目障りな勇者の蘇生も無くなるんでしょ?」



 ゆっくりとなぶるように声が近づいてくる。

 俺は虚勢を張った。



「む、無駄ですよ。私を殺しても第二、第三の神官が」


「そうなの? ならお前が記念すべき神官皆殺し計画の最初の犠牲者だね。気合入れて拷問しないと。死体も磔にして晒してあげるからね」



 ヤベェ、楽に殺してくれないらしい!

 女神(仮)の言葉が走馬灯のごとく蘇る。



『教会とあなたに魔の手が迫っています。あなたに死なれると私もつまらない……期待していますよ、ユリウス』



 いやいや、俺に何期待してんだよ。こんなん不可避でしょ。

 っていうか神のお膝元になんであんなのが入れるんだよ! これは神の職務怠慢だろ、俺にどうこうできる範疇を超えてる。

 いっそグラムに殺られた方がマシだったか……?

 いいや、なにを弱気になっている。まだだ! まだ終わらんよ!



「ククク、のんきなものですね。自分が誘導されたとも知らず」



 俺はいかにも腹案のありそうな顔をヤツに向ける。

 とにかく時間を稼がなければ。


 しかし女はピクリとも表情を変えない。

 特に口を開こうともせず、茨のごとき凶悪な形の鞭をしならせる。ああ、この鞭どこかで見た気がする。どこでだ? SM趣味はないんだけどな……

 大蛇のようにこちらへ伸びる鞭を、俺はぼんやりと眺めることしかできない。

 この教会に誰かいれば。いや、俺が勇者ならこの女にも勝てただろうか。

 ……無理だな。人間じゃ勝てない。

 コイツ魔族だ。不死身の勇者でも殺せないチート的存在。

 でも同じような存在なら、どうだろう。



「なっ……」



 女の表情が初めて変わった。

 庭の端から伸びたツタが、よく似た茨の鞭を弾き飛ばす。



「マーガレットちゃん!」



 思わず声を上げる。

 マーガレットちゃんはジッとこちらを見つめている。

 いつも通りの植物的無表情だ。しかし彼女の眼に攻撃的なものが混じっている気がするのは俺の妄想だろうか。


 マーガレットちゃんは数多のツタをしならせ、一斉に襲い掛かる。

 恐怖のあまり動けないのか。女は目を見開いたまま棒立ちになっている。

 しなるツタが鞭を持った女の腕を飛ばした。



「あ……ああ……兄さん」



 おうおうビビってるビビってる。やっちゃえマーガレットちゃん。

 ……ん? 兄さん?

 俺に羽の生えた妹などいないはずだが。



「信じていました。今もどこかで生きていると」



 女は涙を流しながらマーガレットちゃんに歩み寄っていく。

 腕が無くなったことなど意にも介していない……と思っていたら、瞬く間に傷が塞がり腕が元通りになった。これが魔族の超回復か。勇者が勝てないわけだ。

 女はマーガレットちゃんの花弁の前で足を止めた。



「そう……そうですか。そんなことが」



 マーガレットちゃんは相変わらず言葉を発することはないが、それでもあの女には通じるらしい。

 俺の話してるのか? 二人がこちらを見ている。



「いえ、兄さんが選んだ人なら僕がどうこう言うつもりはありません」



 えっ、マジ何の話してんの?

 女がこちらを向く。



「お前が兄さんの世話をしてくれていたという話は聞いた。花弁を触ってくる不届き者を遠ざけ、時々美容師を呼んで葉を整えてくれていたとも」



 あっ、そういう認識だったんだマーガレットちゃん。



「兄さんの恩人を殺すわけにはいかない。だが、だからと言って放っておくわけにもいかない」


「じゃ……じゃあどうするんです」


「一緒に来てもらう」


「えっ」



 女の姿が掻き消え、俺の肩を何かがちょんちょんとつつく。

 振り返ると俺の職場はどこにもなく、微笑を携えた女の向こう側には鬱蒼とした見知らぬ光景がどこまでも広がっていた。




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