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教会務めの神官ですが、勇者の惨殺死体転送されてくるの勘弁して欲しいです【連載版】  作者: 夏川優希


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104、めざせ、ダンジョンマスター




「あの、魔物を皆殺しにするんじゃなくてですか? ダンジョンのトップ目指しちゃうんですか?」



 勇者たちへのお触れを見てすぐ屋敷に戻り、ロンドにそう詰め寄る。

 すると我が街の少年領主様はパステルスターの浮かんだ目をパチパチさせながら首を傾げた。



「魔物さんたちとお友達になれたら素敵だと思いませんかぁ?」


「と、友達?」


「はい! ユリウス神官や勇者ルイを見ていて思ったんです。人間は魔族とも仲良くできるんだから、他の魔物さんとも仲良くできるんじゃないかなぁって」


「いや、あれはレアケースだと思いますし、ルイに関しては毎回炙り殺されているんですが……」



 領主様は笑顔を浮かべたまま、特になにも答えようとせず今度は逆側に首を傾げる。

 コイツ……

 俺は半目でヤツを見下ろし、中腰になって少年の顔を覗き込む。



「ところで、それと姫様にどういった関係が?」



 ロンドの顔から笑顔が消えた。

 表情筋の一切が仕事を放棄したような無の表情の中、瞳の中のパステルスターだけが意思を持ったようにチカチカと瞬く。およそ子供らしくない抑揚のない声で言う。



「魔族や魔物を仲間に引き込めればフェーゲフォイアーの戦力は内地とは比較にならないものになる。そうなれば誰も、王すら僕に口を出すことはできない。万一どこぞの貴族に姉様を奪われても、侵攻し取り戻すことは容易い」



 あー、そういう事か。納得納得。

 ロンドはパッと笑顔を取り戻し、大人の好みそうなハツラツとした声で言った。



「ユリウス神官、勇者さんたちのサポートをお願いしますね!」





*****





 とんでもねぇ反逆の片棒を担がされている気がする……


 とはいえ皆殺しにしても魔物は次々集まってくるだろうし、人間が魔物を制御できるならそれに越したことはない。

 だが人間がトップになったところで果たして魔物が従うのか?

 とか、もうそういう問題じゃなかった。



「おー……すげぇ。初めて見た」



 空を見上げ、眩しさに目を細めながらため息を吐く。

 雲一つない青空に浮かぶシルエット。巨大な翼を広げ、長い尾をくねらせ、凄まじい力でその巨体を宙に舞わせている。



「ドラゴンだ……」



 市場の客か、あるいは店主か。誰かがため息とともにそう呟いた。

 どうして俺たちはドラゴンにこんなにも心を奪われてしまうんだろう。あの絶対的なパワーに感情を揺さぶられない男などいない。

 子供はもちろん、手元や足元ばかり見て背中を丸めて難しい顔をしていた大人たちも今だけは口を半開きにさせて呆然と天を仰いでいる。

 やがて、弾かれたように一人の勇者が駆け出した。



「ちょっと、どこ行くのよ!」



 彼を呼び止めるパーティメンバーらしい女勇者に、男はぶっきらぼうに返した。



「ドラゴン来てんだぞ。ジッとしてられっかよ!」


「戦うの!? なら装備整えないと……ねぇ。ねぇってば!」



 彼女にあの男の行動は理解できなかっただろう。もしかしたら彼女の目には男の気が狂ったようにしか見えなかったかもしれない。

 だが男に――特に職業として勇者を選ぶような男に、ドラゴンを前にして理性的に行動しろという方が無理なのだ。

 いつしか市場にいる勇者たちはみな駆け出していた。着の身着のままで、空を行くドラゴンだけを見て。ちゃんと足元を見ていないから、色んなものにぶつかる。あちこちから何かが崩れる音や怒声が響くが、そんなこと彼らには見えていないし聞こえていない。

 たかがデカいトカゲに。そう思う人間もいるだろう。

 だがドラゴンのあの大きな体には、少年の心を揺さぶるなにかが詰まっているのだ。

 火に飛び込む虫のように勇者たちは駆ける。それは本能に基づく行動だった。

 強大な力への憧れと“ドラゴンスレイヤー”の称号は凄まじい引力で少年たちの心を吸い寄せる。街を飛び出していく良い大人であるはずの彼らは、ただ憧れに胸を膨らませた子供にも似た輝く笑顔を浮かべていた――





*****





 さて、火に飛び込んだ虫の後始末をするのは誰か。俺である。

 教会に積み重なった夢の残骸を前に俺は膝から崩れ落ちた。


 いや、分かるよ。俺もドラゴン見てテンション上がっちゃったからな。あの異様な雰囲気に飲まれるのも分かる。

 でもさ……気付くだろ普通。ドラゴンと対峙するまで結構な距離走ったんだろ。その間一回も冷静にならなかったのか? 普通に考えてそんな着の身着のままの装備でドラゴンに勝てるわけないじゃん。ガチガチに準備したって勝てるか怪しいのによぉ。本能で分かれよ。あんなデケェのに無計画に挑んで勝てるはずないだろ。誰かを守るために、とかそういうやむを得ない理由で勝てない戦いに挑むなら仕方ないよ。それなら俺も頑張って蘇生しようって思う。でもさ、少なくとも今回は違ったよな。あのドラゴン、街素通りしていったし。なんでわざわざ自分からバケモノの口に飛び込むようなことすんの? 生物に当たり前に備わっている生存本能がぶっ壊れてんのかなぁ? テメェらの脳みそは爬虫類以下か? いい年してデケェトカゲ追いかけてんじゃねぇよカス共が! 死ね! いや死ぬな!



「ユリウス神官、もしかして怒ってますぅ?」


「え゛ぇ゛っ!?」


「やっぱり怒ってます……」



 ロンドである。

 ブッチブチにキレながら蘇生してたので接近に気付かなかった。子供の情操教育に害しかない教会の有様に一瞬焦ったが、今更なので開き直ることにした。ロンドもロンドで内臓露出狂などのマジモンの狂気を体験したせいか、普通の死体にビビる様子はない。

 どうやら領主様は先刻飛来したドラゴンについて聞きにわざわざ教会まで来たらしい。確かにここならドラゴンに殺された勇者からほやほやの新鮮情報を集めることができるからな。

 俺は勇者たちにキレながら聞いた情報をロンドに伝える。



「やはりドラゴンも例のルラック洞窟を目当てにやって来た魔物のうちの一匹みたいです。既にルラック洞窟にはダンジョンボスを狙う魔物たちが集結して激しい戦いが繰り広げられています。魔物にはよほど住み心地の良い好物件なんでしょう。このまま魔物同士潰し合ってくれれば良いのですが、徒党を組まれると非常に厄介です」


「そうですかぁ。勇者さんたち、ダンジョンボスになれそうですかぁ?」



 俺の話聞いてた?

 この死体の山をどう解釈してるのか気になるところだ。教会のオブジェだと思ってんのかい?

 俺は察し激悪のロンド君に懇切丁寧に説明をする。



「相手が魔族じゃないとはいえ、数が多すぎます。今ルラック洞窟はボスラッシュ状態です。残念ですが、今の我々では普通に戦えば勝機はありません」


「普通にやったら勝てないですか?」


「はい」


「じゃあ普通じゃなければ勝てるですか?」


「……えっ?」




 次の日、勇者たちによりルラック洞窟に大量の爆薬が運び込まれた。

 モンスターを攻撃するためではない。

 ヤツらは地を這う虫のごとく洞窟内へ侵入し、至るところに爆薬を設置した。中に潜む魔物に喰われた者もいただろう。その巨体に成すすべなく潰された者もいただろう。だがそんなことはさしたる問題ではない。人材は文字通り無限にいるのだから。

 ヤツらの設置した爆薬は洞窟の崩落を引き起こした。

 瓦礫によりあちこちの通路が封じられ、洞窟はヤツらを封じる檻と化した。洞窟内に食料は多くない。ドラゴンなどの大型の魔物が、少ない食料でどれだけ持つだろう。魔物たちの共食いも進み、放っておいてもヤツらは衰弱していく。か弱き人間でもちょちょいと屈服させられる状態になるのを、俺たちはただ待っているだけで良い。

 ここに地獄の“飢餓洞窟”が完成した……


 下ごしらえを終えた勇者たちをロンドは拍手で迎え入れる。



「皆さん、お疲れ様です! これで魔物さんたちと仲良くなれますね」



 俺は恐怖を覚えた……この期に及んで“お友達作戦”をゴリ押しする領主様の神経が怖かった……。



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