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絶望(メイフェアXN12Aの昔語り。その3)

幸い、フライングカーペット機構は無事でしたので、不時着には成功しました。その際に数人の搭乗員が負傷しましたがいずれも軽症で済み、六十名全員がこの惑星の地を踏むこととなりました。


しかも、その惑星は地球人が居住するのに非常に適した環境を備えていました。搭乗員の誰もがその事実に驚嘆し、歓喜の声をあげる方もいらっしゃいました。


ですがその喜びも長くは続きませんでした。コーネリアス号の主機のダメージは致命的で、たとえ惑星を脱出できたとしてもハイパードライブが使えなければ、最後の補給に訪れた植民惑星に辿り着くことさえ、生きているうちには不可能だったのです。


ずっと加速を続けても、減速を開始するまでだけでも船内時間で三百年。その間に、地球ではさらにその数倍の時間が過ぎてしまうでしょう。しかもその想定は、何一つトラブルが生じることなく、すべての行程が最も効率的効果的にこなされて初めて実現可能な、ほぼ机上の空論に近いものでした。それを、主機を失い、補機のメンテナンスさえままならないコーネリアス号で成功させることは、限りなく不可能に近いものだったと言えます。


何しろ、その状態でN8455星団の異常な宙域をまず脱出しなければいけないのですから。


冷静に合理的に考えれば、コーネリアス号を拠点にしてこの惑星で生きる方が、ずっと人間らしく生きることができるだろうと、当乗員全員の意見は一致しました。自力では地球に帰れなくても救助が来る可能性はゼロではありませんし、もし救助が来なくても、理性的に振る舞うことができれば、この地に新しく人間の世界を作り上げることは不可能ではないという判断でもありました。


その為には、子孫を見据えたカップリングなども、近親婚を避ける為の緻密な管理が必要になりますが、彼らはそういう事態についても想定して選出されていましたので、心理的な面でも乗り越えることは可能な筈でした。そしてそれは実際に上手くいっていたのです。


秋嶋(あきしま)シモーヌも、その時点で交際していた方と幸せにしていました。


あの不定形生物が現れるまではですが。


その後に起こったことにつきましては、既にセシリアCQ202からお聞きになっている通りです。最初の襲撃の際に秋嶋シモーヌも交際していた男性と共に亡くなりました。


彼女の胎内には、既に新しい命も宿っていたのに……


この時の苦しさをどのように表現すればいいのか、私には分かりません。人の心を理解する為に行われたアップデートを恨みさえしてしまったのです。ロボットでありながら……


それにより、三機のメイトギアが、自らの体を傷付けて故障したのです。



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