保護対象(エレクシアの言うことももっともだが…)
「私はあくまでマスターのメイトギアであり、マスターを守る為に存在します。ほんの短時間なら離れることもできますが、捜索となればそうはいきません」
俺を真っ直ぐに見詰めながら、エレクシアは表情一つ変えることなくきっぱりと言った。だが俺の感情は納得しない。
「それはそうかもしれないが、あいつは俺の子だぞ!? それを守ってほしいって言ってるんだ!」
口を吐いて出る言葉をそのままぶつける俺に、彼女はやっぱり冷淡だった。
「マスター。誉は確かにマスターのお子さんですが、同時にこの惑星に生きる野生動物の個体でもあります。ここで生きていく為の能力は既に持っているのです。それに対してマスターは、単独ではここでは数日と生きることができないでしょう。しかも、現在、周囲には複数のボクサー竜の群れの存在も確認できています。そんなところでマスターを一人にはできません」
「ぐ……!」
俺は黙るしかなかった。エレクシアはロボットだ。彼女に人間のような<心>はない。いくら誉にここで生きる為の力が備わってると言っても、普通の人間なら彼女のようには割り切れないだろう。しかしエレクシアは何の躊躇いもなく葛藤もなくそう判断できてしまうのだ。
心がない故に。
ここで押し問答をしても意味がないことは、俺にも分かる。だから俺は言ったのだ。
「分かった。俺が誉を探す。お前は俺の警護としてついてきてくれ」
そう言いながら、俺は家の方に向かって早足で歩き出した。装備を整え、出直す為だ。そうと決めたら一瞬も躊躇っている訳にはいかない。時間がないのだ。
さすがにその命令には、エレクシアも逆らわなかった。俺とエレクシアが家を離れるということは向こうの守りが手薄になるということだが、彼女の言うとおり、俺以外の家族にはここで生きる力が備わっているだろう。伏は出産で動けないが、今なら鷹と刃が子供達を、<俺の群れ>を守ってくれる。いざとなればセシリアも加勢できる。セシリア自身には戦闘力はなくても、コーネリアス号の装備品であった自衛用のハンドガンや自動小銃、ロケット砲も備えてあるからそれも使える。誰も味方がいない誉よりもずっと恵まれている筈だ。
それに、以前、ボクサー竜の襲撃を受けた時、子供達もそれを察知して自分から家の中に逃げ込んでくれた。きちんと危険への対処法が身に付いているのだ。だから大丈夫だ。
家に戻り、探索用の装備を詰め込んだデイパックを背負い、防刃手袋とヘルメットも手に取り、密と刃に対して、
「俺は少しここを離れる、守りは任せたぞ!!」
と二人の目を見ながら声を掛けて、軽く走りながら密林へと再び足を踏み入れたのだった。




