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走・凱編 嫌われ者

俺は、


『嫌われ者はイジメられても仕方ない』


とは思わない。少なくとも今はもう思わなくなった。そもそも<嫌われ者>なんて考え方は、


<価値観のズレを許容できない人間の甘えの産物>


でしかない。


確かにすべての人間を好きになることなんてのは、おそらく不可能だ。俺にもできない。


一方、AIや、AIによって制御されるロボットであるエレクシア達は、<嫌う>ということがない。特にエレクシア達メイトギアは、指示されれば、そう命令されれば、どんな相手だって気遣うし丁寧に接するし大切に扱う。人間の感情を模した反応をするメイフェアだって、最優先の命令として与えられれば自分の<感情>を切り離してでもそうする。それは彼女達が人間じゃないからだ。<心>を持たないからだ。


人間の心や感情は、完全には制御できないからこそ心であり感情なんだと思う。


だから誰かを嫌うのをやめてしまうこと自体は、人間である限りはどうにもできないんだろう。しかし、多少はそれを抑えて折り合いをつけることはできるはずだし、そうしなければ人間は人間社会で生きていくことはできない。自分の心や感情だけを常に最優先してもらえるなんていう都合のいい社会は存在しない。


常にお互いがある程度の譲歩をしながらでしか人間の社会を維持することはできないんだ。


ゆえに、当然、自分の『嫌い』という感情ばかりを優先することも、それを理由に他人を攻撃することも、許されない。むしろそんなことをしようとする人間こそが、<社会のリスク>になる。


自分の好き嫌いだけを最優先してもらうことを期待するような人間は多いが、それは無理なんだって理解しないと人間の社会は生き難いだけだろうな。


それに比べて、ここはまだ小さな小さなコミュニティに過ぎない。しかも基本的には自分ばかりを大切にしてほしいなどと口にするような人間も今はまだいない。だから後はビアンカ自身の気持ちの問題なんだよ。


『生きたい! 今の私を受け入れてほしい!』


と我儘を言ってくれればそれでいいんだ。それを許さない人間はここにはいない。何しろその我儘は、別に誰の不利益にもならないしな。誰かの不利益になる我儘はすべて聞き入れることはできないにしても、ビアンカが生きたいと願うことは何の問題もない。生きるというのは他の命をいただくというのは事実でも、それ以外では誰の命を脅かすものでもない。




俺がそんなことを考えてる間にも、ビアンカはコーネリアス号で作ってもらった<服>を着せてもらってたらしい。さすがに一人では着られないものだからな。


それは、かつてのビアンカ・ラッセが好きだったという花柄の薄桃色の生地を使ったものだった。コーネリアス号の乗員の中でも一~二を争う戦闘力を持つという彼女だが、そういう可愛いものが好きだったそうだ。



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