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走・凱編 どこまでを人間と見做すか

怪物のような姿に生まれてしまった自分自身をビアンカがどう思うかは、俺は彼女じゃないから分からない。


それでも、彼女が、


『こんな姿で生きるくらいなら死にたい!』


と今後思うようになる可能性は決して少なくないと思う。だが、妹のことを見てきて、そしてここでいろいろな姿形になって生きている者達を見てきて、外見や身体機能で生きる生きないを決めるということの非合理さも俺は実感したんだ。


そして、自分で死を選ぶというのは、実は周囲の人間の人生すら大きく変えてしまう可能性のあるものだというのも、妹が自ら死を選ばなかったからこそ今の俺があるという事実を知るからこそ感じるし、軽々に選べないことだと思うんだ。


『死にたいなら自分で死ね!』


とか、


『生きてても苦しいだけだから死を選びたい』


とかも、安易に口にしていいことじゃないというのも感じる。


死にたいと言ってる人間を死なせるのは、間接的とはいえ人間を殺すことでもあるしな。しかも直接手を下さなかったら責任や罪を問われることもない場合もあり、そうなるとある意味では<合法的な殺人>とも言えるだろう。証拠が残る形で追い詰めていったらもちろんそれはそれで罪にも問われるだろうが、身近な人間が『死にたい』と言ってて、取り敢えず体裁だけでも気遣ってるふりをしておけば、助ける気なんかまったくなくても罪も責任も問われることがない形で人を殺せるよな。


妹は、そんな形でも俺に<妹殺し>の宿業を背負わせたくなかったんだろうって今なら思う。


たぶん、逆の立場だったら俺もそう考えるし。俺が楽になるために妹に兄殺しをさせたいとは思わない。そんなことをするくらいなら、自分が苦しんだ方が楽だ。


もっとも、それさえ、正気が保っていられる間だけだろうけどな。正気を失ってしまったら、そんなことも考えてられなくなるのも人間だろう。


妹の場合は。正気を失った時には既に人間としての意識も失ってたからそんなことを考えることさえできなかっただけで。


そんな訳で、ビアンカが『死にたい』と言っても、俺の意志で死なせてやることはない。彼女がいっそ俺達に依存してくれるなら『生きてて良かった』と思わせてやる。その自信はある。


だけど『死にたい』と言われても、その願いは叶えられない。自分が怪物になっていく苦しみの中でさえ俺に<人殺し>をさせなかった妹の想いを無駄にさせられるのは真っ平御免だ。


まったく気付くことがなかったのならどうにもできなくても、彼女が俺達を振り切ってどこかで死を選んでしまったのなら止められなくても、俺達の手の届くところにいる限りは見捨ててやらない。


エレクシア達は彼女を人間と認識できてなくても、俺は彼女を<人間>だと思ってるからな。


でもまあ、ここだとどうしても『どこまでを人間と見做すか?も個人の主観で』って話になるから、どう足掻いても<俺の勝手な判断>ってことになるんだけどな。



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