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明編 じれったい

密林には道がある訳ではないので、ローバーでの移動は、俺が歩いていくよりは早いものの、それでも亀が這うようなじれったさもあった。


エレクシアだけで行ってもらえば確実に早いが、さすがにヒト蜘蛛(アラクネ)と同じ体を持つビアンカをエレクシアだけで抱きかかえるのは無理があるからな。抱き上げるだけなら問題ないんだ。エレクシアの力なら。ただ、ビアンカの負担が大きいはず。


それでも最悪、俺はローバーの中に待機して彼女に先に行ってもらうことになるだろう。


もっとも、その場合でも長時間離れていることはできないから、可能な限り接近しないといけない。


とは言え、この間にもビアンカは密林の奥へ奥へと移動していく。いくら戸惑いながらとはいえ、密林の中を移動するのは今の彼女の体は適していた。六本の足を自在に使い、進む。


体が構成された時点で使い方についてはもうある程度分かっているようだ。まあそうでないと身動き一つ満足に取れないまま他の動物の餌になるだけだしな。


さりとて、絵面としては巨大なクモの怪物に抱えられた全裸の女性、といういろいろヤバいものだが。


しかも必死に体を隠そうとして足を閉じ手で胸を覆っているから、ますます危ない。


さて、そんな彼女にどうやって接触するか。


まあ当然、エレクシアに接触してもらうことになるだろう。コーネリアス号の乗員としての記憶があるとすれば、メイトギアのこともよく知っている訳で、安心するだろうし。


が、それもとにかく彼女のところに駆けつけないと意味がない。


焦る気持ちを抑えつつ、エレクシアには可能な限り急いでもらった。


と、その時、


「マスター、(めい)様が目標に接近中です」


エレクシアが言う。


「なに!?」


もう(めい)の縄張りに入ってしまったのか!?


マズい…マズいぞ……!


野性のボクサー竜(ボクサー)や他のマンティアンなら、ドローンで威嚇することで多少誘導もできるものの、(めい)はドローンのことをよく分かっていて警戒しない。ドローンでの誘導はできない。


こうなったら俺が話しかけて、と思ったが、現在、(めい)に張り付いているドローンは、軽量化及び構造の簡略化のためにスピーカーは搭載していないタイプだった。


周囲にいたのも全部そのタイプだ。


くそっ! これまでスピーカーが必要になるようなことがほとんどなかったから機能を絞ったのを作るようにしたんだが、それがここに来て裏目に出るとは……!


(めい)が負けることはおそらくないだろう。しかしそれは同時に、ビアンカの命の危機が迫っているという意味でもある。


(めい)自身はヒト蜘蛛(アラクネ)を知らないはずとはいえ、本能的に危険な敵と察して排除しようとする可能性は高い。


ビアンカの危機もそうだが、ビアンカに人間としての意識があるなら、(めい)に<人殺し>をさせたくない。


『頼む、間に合ってくれ……!』


俺は祈るような思いで密林を睨み付けたのだった。



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