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明編 ビアンカ

どういう形で生まれてくるかは、誰にも分からない。


今の人間社会では、ほとんどの遺伝病も治療できるので、先天的な異常があってもそれがハンデになることもない。


だが、それでも、人間は<平等>じゃない。どんな親の下に生まれるか、どんな適性を持って生まれるかは、今でも運次第だ。


そんな自分の生まれを恨む人間もいまだにいる。それを理由に社会を恨む人間もいる。


でもな、生まれだけですべてが決まってしまうわけじゃないのも、また、事実なんだよ。本人の努力もそうだが、<出逢い>によって人生は大きく変わる。俺がエレクシアと出逢ってその後の人生が大きく変わり、(ひそか)(じん)(ふく)(よう)に出逢ったことでここで生きていく覚悟が決まったようにな。


両親を事故で喪い、難病を抱えた妹の兄として生きなきゃいけなかったことを恨みに思ったりもしたのに、エレクシアや(ひそか)達に出逢えたことで俺は幸せになれた。


異形として生まれてしまった<ビアンカ>にも、その可能性はある。なあに、ここじゃ完全な人間は俺だけだ。むしろ俺がこの世界じゃ<異形>なんだよ。


「ビアンカの家を作らなきゃいけないな。あと、彼女用の服だ。あの体じゃ上半身はともかく下は特別製になるな」


「そうですね」


密林の中をローバーで進みながら、俺はエレクシアとそんなやり取りをした。彼女を迎えてどう<隣人>として生きていくかを想定する。


人間としての感性を持っているのなら、そういう部分での衝突は少ないだろう。後はどれだけ、ヒト蜘蛛(アラクネ)寄りの感性を持っているかだが、その辺りもエレクシアやイレーネがいれば対処できる。


そうだ。彼女を受け入れられる環境は俺達のところにはあるんだ。


だから生きてほしい。『必ず』と断言はできないものの、


『生まれてきて良かった』


と思わせてやる。


が、そんな決意を固めていた俺に、エレクシアが、


「マスター。目標が移動を始めました。密林へと入っていきます」


「なに…!?」


マズいな。ここでは実は河岸の辺りが一番危険が少ないんだ。クロコディアに襲われる危険性はあっても、陸棲の危険な生き物の多くは河を恐れていて近付かないからな。


クロコディア以外ではアクシーズも河の周辺も生息域にしているものの、ヒト蜘蛛(アラクネ)相手に自分から攻撃を仕掛けることはまずないから、よく似た姿を持つビアンカに襲い掛かるようなことはおそらくないだろう。


しかし密林の中でなら、群れで行動するボクサー竜(ボクサー)は、ヒト蜘蛛(アラクネ)をそれほど恐れない。無闇に襲い掛かったりはしないにせよ、飢えていたりするとその限りじゃないんだ。



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