明編 俺の役目
などと俺が想いを新たにしている間にも子供達は成長していく。
和に引き続いて陽も、
「じいじ、ばあば」
俺やシモーヌを見て言うようになった。しかもその時の表情が最高に可愛い。これでメロメロにならないわけがない。
「はぁい、なんですか? 陽ぁ~♡」
とか、和の時と続けて目尻が下がりっぱなしだ。
「お父さん、ヒドイ顔」
灯が俺を見て言う。
「ほっとけ! それに灯が俺のことを『パパぁ♡』と呼んでくれた時だってこんなだったんだぞ」
俺がそう返すと、シモーヌも、
「そうでしたね♡」
と続く。
そのやり取りがすっかりお祖父ちゃんお祖母ちゃんだなと思ってしまった。
もっとも、俺もシモーヌも、外見上はここに来た時と全く変わってないだろうけどな。老化抑制技術が確立される以前の人間で言えば俺でさえせいぜい三十代後半くらいか。二百歳くらいまでいってようやくかつての六十代くらいになる感じだ。ちなみにシモーヌは二十代後半くらい。実年齢でも俺の半分くらいまでしかいっていないらしい。
女性の年齢について詳しく触れるのはあれだから、敢えてそれ以上は言わないし、そもそも今の人間社会では成人年齢(三十歳)を迎えればそれ以降は年齢はさほど重視されないから、非公表は普通なんだ。
と、それはさて置き、若い時代は長いものの、老化が始まると加速度的に衰え始める。老化抑制の効果が限界を迎えるからだ。
これもあって、二百歳を過ぎると長くても三十年とか四十年で死を迎える。
そうやって衰えていくのは、最期を迎えるための準備なのかもしれない。三十年四十年の間に心構えを作るということか。
俺はまだ、二百までにも四十年余り残ってるからな。今では治療カプセルでメンテナンスを受けてると言っても、光や灯の方が俺より先に逝く可能性だって否定はできない。治療カプセルでのメンテナンスは、あくまで肉体を健康に保つというだけのものでしかないからな。
それを思うと寂しくもあるものの、少しでも子孫達がここで問題なく生きていけるような環境を整えておきたいし、何より、人間として幸せに生きられる素地は作っておきたい。そういう意味では、実際の暮らしをこの目で確かめた上で対処していけるのはありがたい。
と、言い聞かせてないといられないというのもあるけどな。
嫁に先立たれ、子供達も、事故や病気でなくても俺より先に逝く可能性がある。これはなかなか精神的にクるぞ。
とは言え、それが分かってて子供達を生んでもらったんだ。泣き言こぼしてちゃいけないな。
俺の勝手でこの世に送り出してしまった子供達に、
『生まれてきて良かった』
と思わせてやるのが俺の役目だと、改めて自分に言い聞かせる。




