明編 妊娠
明に妊娠の兆候が見られてから一ヶ月ほどが経った頃、ドローンのセンサーにもバイタルサインとしてそれが捉えられた。
「もう間違いないということかな」
「はい、そうですね。明は妊娠しています」
そこからさらに数ヶ月。少しポッコリと膨らんだ腹を抱えた明が狩りをしている様子が何度もドローンによって捉えられる。
若干、動きにくそうにはしているのが俺にも分かってしまうものの、彼女はそれでも生きる為の努力は惜しまない。
まあ、本人は努力してるとかいう意識すらなくやってるんだろうけどな。
その一方で、できることならこちらで<検診>を受けてほしいと思ってしまう。なにしろ、玲の件があったから、明の次子にもその可能性がないとは言えないわけで、万が一そうだった場合に、明が我が子を食うところなんか見たくもないと考えてしまうんだ。
かと言って、検診を無理強いすることはできない。だから、
「とにかくその時に備えて、準備だけはしておかないとな」
「ですね」
シモーヌと今後のことを確かめ合って、俺達は明の出産に備えた。
その間にも、こちらでも子供達はどんどんと成長していく。麗も和も、陽も。
そして玲も。
ああ、それだけじゃなく、レッドとイエローの子供達もすっかり大きくなり、姿が見えなくなった子も何頭もいた。巣立っていったんだ。
一応、所在確認のためのマイクロチップを打たせてもらってたので、それぞれの様子は簡単に確認できる。
他の群れに合流した者、自分で縄張りを築いた者、中には残念なことにどうやら病気に罹ったらしく、死亡してるのが確認された者もいた。
野生の生き物は、たとえ病気に罹っていても自分が弱っているところを見せようとしなかったり、弱っていることで外敵に狙われないようにするために身を隠したりすることがあるようだ。そうしているうちに手遅れになり、死に至ることも少なくない。
俺の家族だったらもっと注意していたかもしれないが、レッド達はまだ<ペット>じゃなく、たまたま俺の家の庭を縄張りにしている<隣人>である。だからあまり干渉はしないでおこうと思ってるんだ。
ただ、それを知った時、灯は悲しそうにしていた。彼女にとってレッド達は、ある意味、友人でもあるからな。その友人の子が亡くなっていたとなれば、少なからず気持ちが沈むのも当然だろう。
それでも、
「分かってる…これがあの子達の生き方なんだもんね……」
とは言ってくれた。
灯は本当に利発で優しい子だ。彼女にはずっと幸せでいてほしい。厳しい現実の中に生きながらでも幸せになれるのを俺達は知っているからな。




