表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

585/3014

明編 赤ん坊

これまでも散々、マンティアンの世界の過酷さには触れてきたつもりだが、それでもなお、触れてこなかったことがある。


人間由来の遺伝子を持つ以上、マンティアンにも<先祖返り>を起こす事例は存在しうるということだ。


そして人間の姿を持った赤ん坊がどういう運命をたどるのか、マンティアンの習性を考えれば、当然のように結論が出ると思う。


食われるんだ。母親に。


それも、(しん)にとっての(れん)の時のような、『死産だった子を』というのじゃなく、生きている我が子をだ。


むしろ、死産だったほうが食べられたりしないだろうな。動かないから。


それが、映像として確認できてしまったんだ。俺達の家からは百キロ以上離れた場所ではあったが、調査のために飛行中だった母艦ドローンから放たれたマイクロドローンが捉えたんだ。


「……」


「マンティアンにもあるっていうことが、これで確認できてしまいましたね……」


言葉を失ってた俺に、専門は植物とはいえ生物全般にもそれなりに精通しているシモーヌは、重苦しいながらも冷静に声を掛けた。


そんな彼女の落ち着きに、俺も救われる。これが野生では当たり前なんだということを改めて教えてくれて。


「分かっちゃいたが、こうやって改めて確認できると、さすがにきついな……」


絞り出すようにそう呟いた時、視界に入った陰に俺はハッとなった。


(えい)だった。(えい)が自分の部屋を出たところに立って俺を見ていたんだ。


マンティアンらしい冷めたその視線は、感情というものを掴ませなかった。


だが、俺はその視線に見覚えがあった。(じん)だ。(じん)が俺を見る時の視線と同じだと感じた。


彼女とは直接の面識はないはずだが、それでも(えい)がしっかりと(じん)を受け継いでくれてるんだっていうのを実感する。


むしろ、娘である(めい)よりも(じん)に近いのかもしれないな。


彼なりに俺のことを気遣ってくれてるのかもしれない。


さらには、


「じいじ、じいじ!」


と、最近、意味のある言葉を話し始めた(まどか)が俺を呼んでくれる。(ひかり)(あかり)は言葉を話すのにもっと時間がかかったが、これで個体差が大きいことが確認された。しかし、


「はあい、じいじですよ♡」


血は繋がってなくてもまぎれもない俺の孫である(まどか)が俺を呼んでくれるという事実の破壊力は覿面で、俺の表情は一瞬でほころんでしまった。


ああ…子供って本当に可愛いなあ……♡


たとえ血が繋がってなくても、こんなにも可愛いんだ。


でも、だからこそ、命を落とすマンティアンの子供達のことが心に刺さる。


「助けられるものは、助けたい」


飛びついてきた(まどか)を抱き上げつつ、俺は、シモーヌとエレクシアに向かって言った。


「そうですね」


とシモーヌは承諾してくれて、


「承知しました」


とエレクシアは応えてくれたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ