明編 誕生
光が生んだ男の子は、ちゃんと人間の姿で生まれてきた。パパニアンとしての遺伝子を多く受け継いでる両親から生まれたから、パパニアンとしての形質が多く現れる可能性もあったが、どうやら今回はそうじゃなかったようだ。
もちろん、パパニアンの姿で生まれていたとしても俺にとっては可愛い孫だからそのまま受け入れるつもりだったが。
「お疲れ様。よく頑張ったな」
シモーヌと一緒に光達の家に訪れて、ベッドで赤ん坊に乳をやっている彼女にそう声を掛けた。
「ありがとう。お父さんとシモーヌのおかげだよ」
そんな風に返してくれて、俺も照れくさくなる。そして、
「聞いてたほどは大変じゃなかったけど、それでもきついね」
と続けて言った彼女には、
「俺は男だから今のままじゃそれを経験することはないし実感はできないが、尊敬するよ」
正直な気持ちを告げさせてもらう。
するとシモーヌが、
「私は、記憶だけなら瑠衣を産んだ時のがあるから、安産だったのなら良かったって素直に思える」
と。
<瑠衣>というのは、<オリジナルの秋嶋シモーヌ>が、例の不定形生物内で生んだ娘のことだ。ここにいるシモーヌも、その時の記憶は引き継いでいるから、記憶の上では一児の母でもある。
俺の<群れ>に加わってからも灯を育て、何だかんだと子供達の世話もしてくれたから、そういう意味でも立派な<お母さん>ではあるが。
「先輩お母さんのシモーヌもいるし、セシリア達もいるから、子育てのことは何も心配要らない。と言うか、和で経験済みだし大丈夫か」
そうだ。誉の群れで人間の姿で生まれた和を引き取った時に、強い母性が発露して、妊娠もしてないのに母乳まで出た光なら、大丈夫だろう。経験上では二人目ってことになるしな。
こうして、俺の<群れ>にまた子供が増えた。外見上は三歳くらいに見える麗と、そろそろ二歳くらいに見える和と、そして光の実子。
丁度、三姉弟って感じか。パパニアンばかりになったのは、どうしても一番人間に近いから馴染みやすいということかもな。
順が大人しくなって少し静かになってたのが、また賑やかになりそうだ。
特に、光の子は男の子だし。
「で、名前はもう決めてるのか?」
俺が問い掛けると、光はふわっと柔らかい笑顔を浮かべ、
「陽…にしようと思う。太陽の陽で<ひなた>だよ」
と応えた。その顔は、いよいよ母親そのものになってきた。以前のどこか冷淡な印象だったのがすっかり柔らかくなったんだ。
「陽か。いい名だ。あたたかい心を持った子に育ってくれると思う」
俺も、自分が満面の笑顔になっているのを感じていたのだった。




