明編 麗
形としては<連れ去り>ということにはなるんだろうが、元々群れの中でイジメられてたみたいだなからな。下手をすると死ぬまでイジメたおされてた可能性もあるし、それを考えればむしろ助けられたとも言えるんだろう。
とにかく、深が連れ帰ってきたその子を、俺は麗と名付けた。女の子だ。
麗は、天敵である明や深によって群れから引き離されたところを、ある意味では新に救われた形になったことで、新にすごく懐いてしまった。
しかも、新の方も麗のことを気に入ったらしく、いつも彼女を抱いて一緒にいた。
「う~む。これは、ひょっとすればひょっとするかもな」
「ですね」
その様子を見ていた俺とシモーヌは、ある予感に頬が緩むのを感じてしまった。
そう。新の新しい<お嫁さん候補>が現れたということだ。
誉と命の件の時もそうだったが、人間では小児性愛だなんだと言われるかもしれないそれも、野生では別に珍しいことでもないだろう。要は子供を作れるかどうかだけが問題だからな。
凛との間では子供ができず、子供を望むかどうかですれ違ってしまったゆえに別れることになってしまった新だったが、同じパパニアンが相手で、麗の方も受け入れてくれるなら、もしかしたら子供ができるかもしれない。
ちなみに、その凛は、現在、侑というレオンと結ばれ、娘(たぶん)の按を生んで幸せに暮らしている。ずっと一人だった新と比べるとちょっとあれだったから、ここまで触れてこなかったんだ。しかし麗が来たことで、ようやく新にも春が訪れたということになるかな。
このまま上手くいってくれればいいんだが、仲の良さを見ている限り大丈夫そうな気がする。
しかし当然、麗も鋭のことは怖がっているものの、新が、
「大丈夫。心配ない」
と伝えているそうで、新と一緒なら大丈夫なようだ。
刃と一緒に暮らし始めた時には密も怖がっていたものの慣れていったから、実際に一緒に暮らしているうちに平気になるだろうな。
それに、万が一のことがあっても、エレクシアかイレーネが傍にいれば守ってくれる。
というわけで、こっちはこれでOKだ。
結果として麗を救ってくれた形になった明は、そんなことなど忘れたかのように今日も今日とて狩りにいそしんでいた。
そして、容赦なく獲物を仕留めていく。
だから彼女にとって麗を救ったことはあくまで結果論であって、人間が思うような<優しさ>じゃないんだろうな。




