明編 墓
新暦〇〇二八年九月二十六日。
迫のような事例でいちいちショックを受けていてはキリがないと分かっちゃいるんだが、つい情が移ってしまったりというのもどうしてもあるからなあ。
とは言え、早々に割り切るためにも俺は迫の墓を作ることにした。エレクシアを伴って迫が死んだ場所へと赴き、コーネリアス号の部材から削り出した墓標を建てる。
人間にとって『墓を作り死者を弔う』というのは、踏ん切りをつけるのに非常に有効な手段だと実感したからな。
「これでいかがでしょうか?」
角に食われた後は他の獣達にも貪られ、特に硬い上皮の部分と骨だけになった迫を土に埋めて墓標を建てたエレクシアが確認を求めてくる。
「ああ、それでいい」
機械である彼女にとって人間のこの行為はまったく意味のないものにも見えるだろう。しかしロボットは、人間の行う、一見無意味にも思える行動や行為を、『なぜ?』と問い掛けることはあっても馬鹿にすることはない。
エレクシアのように辛辣な対応をするようにカスタマイズされたものであればそれっぽい振る舞いを見せることはあるものの、本気で馬鹿にしているわけじゃない。
<人間の心理に与える効果>というものもきちんと考慮されてるんだ。それをしないとAIに対して反感を覚える人間が確実に増えるからな。
元からAIに対しては拭いきれない不信感があるのにその上、人間の<気持ち>にケチをつけるようなことをすれば反発は必至だろう。
AIは、<人間への合理的な対応>として、それを無視することはしない。
一義的には無駄にも見えるものでも<人間という種>にとっては必要なものだと理解しているんだ。
「ありがとう。それでいい」
だから俺も、素直にエレクシアに感謝できる。
俺の返事を受けて、エレクシアは群がってくるボクサー竜を追い払いながら、戻ってくる。
ちなみに俺の方は、拾号機を護衛として傍に付けていた。すると、見慣れない不気味な<何か>を警戒して、ボクサー竜達は近付いてこない。たまに蛮勇を見せて近付こうとする者がいても、拾号機がスタン弾を放ち、退ける。
実に頼りになる護衛だよ。
光の妊娠に伴い今は休んでいる<調査>の時は、ボクサー竜の群れの動向を常に探りながらなるべく遭遇を避けるようにするんだが、今回は、
『迫の墓を作る』
のが目的だからな。それにあまり時間も掛けてられないので、近くにボクサー竜の群れがいるのが分かってたが強行させてもらった。
で、<お詫び>と言っては何だが、食料として確保してあった猪竜の肉を一頭分、提供させてもらう。
猪竜というのは、以前は<ブタ>と呼んでいた、ブタによく似た動物のことだ。習性としてはブタよりもイノシシに近いのでそう呼ぶことにしたんだ。




