誉編 連携
「ごぉあああぉあぁぉあぁぁーっっ!!」
嶽が咆哮し、周囲の空気をびりびりと震わせる。それは、百メートル以上離れたローバーの中にいた俺の体にまで響くようなそれだった。
正直、俺もそれに震え上がってしまう。目の前でやられていたら体そのものが竦んで動けなくなっていただろう。
ここで俺も銃を片手に颯爽と駆けつけてエレクシア達と力を合わせて嶽を倒せたらさぞかし格好いいだろうが、そんなものは所詮、フィクションの中だけの話だと分かる。安全な筈の場所にいてさえ、小便をちびりそうだ。
「くそ……っ!」
たまらない敗北感に心が折れそうになる。
だが、俺がこんなことで心折れててどうする! エレクシア達があんなに頑張ってくれてるのに……!
なんとか自分を奮い立たせ、目を背けてしまいそうになるタブレットの画面を睨む。彼女達の勝利を信じて。
と、その時、
アップになった嶽の顔、いや、目になにかがぶつかるのが見えた。
と言っても、瞬膜と言われる透明な膜が眼球を守ってて、まったく堪えなかったようだが。
「?」
たまたま何かの破片が当たっただけかと思ったが、カメラが切り替わって全体を映した映像になった時、何が起こったのか、理由が察せられてしまった。
「誉……!?」
画面の隅に小さく誉の姿が見えたんだ。しかも、何かを投げつけるかのような仕草をする誉の姿が。
それだけじゃない。
誉の群れの仲間達も姿もある。轟や昴の姿まで。
「そうか……!」
誉は、自分達の縄張りに危険な外敵が迫ってることに気付いて、迎撃に出たんだ。
人間の感覚からすれば危険な行為だが、野生の動物にとっては自分達の身は自分で守るのが常識だろう。
『余計なことを』
とは言えないな。
しかも、誉達は、嶽がエレクシア達に意識を向けている瞬間に石や木の実を投げつけては、自分達に意識を向けたと見るや姿を隠し、しかし気を逸らしたと思えばまた石や木の実を投げつけるという形で、嶽の集中を乱させていたのだった。
メイフェアも、誉達の意図を察したらしく、敢えて何も言わなかった。誉達が嶽の気を引くとその隙を狙って攻撃を加え、嶽が誉達に向かわないようにする。
見事な連係プレイだった。
だがそれでも、嶽はタフネスぶりでも常軌を逸していた。
エレクシアとメイフェアとイレーネ三体の連携による攻撃を何度浴びてもダメージらしいダメージを受けているようには見えない。
『マズいな……』
持久戦になると、全力稼働できる時間が非常に限られているメイフェアとイレーネは、途中で脱落することになる。かと言って無線給電器による給電の範囲内での稼働では、それこそ威力が足りない。
となれば、結局、エレクシアとの我慢比べになってしまう可能性が高いのか……




