誉編 化け物め
嶽と対峙したエレクシア達には、一切の容赦はなかった。
何一つ手加減することなく、嶽を殺しにかかる。
弾丸のように迫り、エレクシアは頭部に、メイフェアは右脇腹に、イレーネは左脇腹に、何一つ手加減のない一撃を加える。
単純な蹴りや掌打だったが、相手がサイゾウ程度の動物ならこの一発で頭蓋骨は粉砕されて脳が豆腐のように崩れ去り、内臓はぐちゃぐちゃに破裂しているだろう。
なのに嶽は、僅かによろめきはしたものの、すぐさま反撃に移った。
エレクシアを食らおうと巨大な顎を奔らせると同時に、体を反転させて、丸太のような尻尾を振り回す。
尻尾の直撃を受けた木が、何本もへし折られる。
本当にとんでもない攻撃力だ。
完全に<生き物>の範疇を逸脱している。
戦闘用のロボットに匹敵するんじゃないのか?。
後にエレクシアが語ったところによると、鱗状の皮膚が何層も重なり、それがクッションの役割をして衝撃を緩和していたそうだ。
ここまでの、拾号機と拾壱号機による銃撃により表皮の一部が剥がれ落ち、刃物を重ねて作ったかのような、<鱗状の鎧>が露出していた。本来は透明なんだろうが、光を乱反射してるのか白っぽく見える。それでいて完全に白く見えないのは汚れのせいだろう。
「化け物め……っ!」
百メートル以上離れたところでローバーの中でタブレットの映像を見ていただけだが、俺も思わず唸ってしまう。
だが、嶽の異様さは、その体だけじゃなかった。エレクシア達を見る目が、あまりに狂気をはらんでいるようにも見えたんだ。
瞬膜と呼ばれる透明な瞼ような膜に覆われていても、その目にはまぎれもない憎悪の光が宿っているように俺には感じられてしまった。
それは確かに、凶の目付きそのものだった。
『殺す殺す殺す殺す……っ!!』
嶽の目が、言葉以上にそう言っている。
そんなに憎んでいるのか、俺達を……!
しかし、不定形生物由来の生き物達が全て人間を憎んでいるかと言うと、実はそうじゃないのも事実だ。悠やシモーヌを見ても分かる。
そういうのが発現するかどうかも、たまたまなんだろうか。
単純に攻撃力の高い生き物になった場合はそうなるのかと言えば、クロコディアである悠だって、水中ではメイフェアを苦戦させる程度には強く、かつ本質的には凶暴でもある動物だから、悠がそうならない時点でやはり違うのだと思われる。
彼女はむしろクロコディアとしては例外的なくらいに大人しかったんだ。やっぱり、そういうのが発現するかどうかもたまたまなんだろう。
なんてことを俺が考えている間にも、エレクシア達の攻撃は続いていたのだった。




