誉編 最終防衛ライン その1
<最終防衛ライン>。
それは、誉の群れの縄張りの直前。
そこを破られればもうすぐに誉達が危険に曝される。
本来ならそこまでにいくつかの防衛ラインを作るべきなんだろうが、いかんせん、こちらにはこそまでの人手も装備もない。
ここがまさに<最終>だ。
この位置なら、メイフェアも合流できるからな。
光、灯、順、シモーヌには、光莉号に避難してもらって、イレーネも合流する。もちろん、深や焔や彩や新にも避難してもらうことになるが、あいつらは本当に危険が迫った時でないと、自分が危険を感じないと、望んで光莉号には入ってくれないからな。
エレクシア、メイフェア、イレーネの連携で嶽を倒す。
危険ではあるが、もうそれしかない。せめてコーネリアス号の防衛用に装備された<荷電粒子砲>が使えればそちらになんとか誘導してとも思うが、主機も補機も駄目になってる今じゃ出力がまったく足りなくて使えないしな。
「すまん。結局、誉達を危険に曝すことになってしまった……」
合流したメイフェアにそう言って頭を下げると、彼女は、
「そんな! 滅相もありません! 誉様を守るのは、本来、私の役目ですから…!」
と恐縮してくれた。
この辺りは、なるべく人間の望む反応を返すように作られているだけはあるかなとも思う。
もっとも、常にそうだととても<感情>とは言えない訳で、時には意図しない反応が返ってくることもあるけどな。
だがそれ以上に気になるのは、イレーネだった。
「どうだ? やれるか?」
彼女はかつて、嶽に似た<鵺竜>に敗れ、捕食されたことで大きく損傷し、それが原因で義手義足となり、メイフェアと同じく<感情(のようなもの)>を与えられていたのが損なわれてしまったんだ。
人間であれば十分にPTSDを発症していてもおかしくないような状況だ。
しかしイレーネは、
「問題ありません。ご命令とあれば現状の機能で果たしうる最大限の結果を出します」
表情一つ変えず、淡々とそう応えてみせた。ロボットであるが故に。
そして彼女は、その通りにするだろう。何一つ躊躇うことなく、
『爆弾を持って嶽に食われろ』
と命令されればその通りにするに違いない。
だがもちろん、俺はそんな命令をするつもりはない。そんな風に安易に使い捨てていては、俺達はきっと生き延びられない。そんな命令を下すことがあるとしたら、それはもう、完全に追い詰められている状態だ。
しかし今はまだ、手はある。厳しいのは事実だが、間違いなく撃破はできるだろう。
さらに強力な奴が現れる可能性も否定はできないものの、今回は大丈夫だ。
……犠牲が出るかどうかだけの問題なだけで、な……




