誉編 管理権限
嶽が凶の生まれ変わりであろうとなかろうと、俺のやることはただ一つ。
『家族を守る』
だ。
その結果がどうであれ、受け止めるしかない。嶽が死のうとも、万が一家族を守り切れなかろうとも。
そんなことを思いつつも、嶽が俺達のところから離れていってほしいと願ってはいた。いくら覚悟を持つと言ったところで、どちらの結果も招かないで済むならそれに越したことはないからな。
が、俺の願いも空しく、嶽は確実にこちらに近付いてきていた。運が悪いのか何なのかとも思うものの、実際にはこの種の<怪物>はこの台地のあちこちで、決して少なくない頻度で誕生しているはずだし、必ずしもそれらすべてがこちらに来るわけじゃないのであれば、別に『運が悪い』とボやくことでもないんだろう。
もし、すべての怪物が俺達を狙ってくるなら、それはもう『運が悪い』じゃなくて明らかに何かの意図が働いているということだろうし、現状でそうじゃない以上は、必ずしも運が悪いわけでも、何者かの意図が働いてるわけでもないんだろうとは思う。
ま、取り敢えず確かめようもないことについてはさて置くとして、嶽がこちらに近付いてくる可能性が高い以上、備えなきゃいけないな。
というわけで、コーネリアス号に厳重に保管されていた<電磁加速質量砲>を、イレーネとセシリアがメンテナンスに行ったついでにこちらに運搬しておく。
「まさかこんなものまで使うことになるとはな……」
ちなみに、このレベルの管理権限が俺に移ったことをコーネリアス号のAIに認めてもらうのに、三年ほど時間がかかった。
元の管理者が亡くなって相当の年数が経つこと。
本来の権利者である<JAPAN-2社>が自分達を捜索していることが確認できなくなってから相当の年数が経つこと。
この惑星に法律の支配が及んでいないこと。
等々を確認の上、セシリアやイレーネやメイフェアが俺の人物像を評価してくれて、それで<緊急時の管理者に値する>とAIが認めてくれたことで、ようやくコーネリアス号のすべての権限が、あくまで緊急時対応の臨時措置として俺に<貸与>されたんだ。
「さすがにこれの実物を見ることになるとは思わなかったよ……」
映像などでは見たこともあるものの、第一級の軍事機密にも属する<電磁加速質量砲>の本物など、一般人である俺が生で見ることなんてまずなかったハズだからな。
実際、一般に公開されているものは、その時点では旧式化して既に実戦配備されていないものか、ただのモックアップというのがほとんどらしい。
宇宙船すら破壊できる強力な武器だから、当然と言えば当然なのか。
もっとも、今回、必要とされているのは、<威力>じゃなくて<弾速>なんだけどな。




