誉編 視線
現在のように情報の伝達が容易じゃなかった時代、正確な記録を残すことが難しかった頃は、割と、
『その時その時の都合でルールを捻じ曲げてしまう』
ことが往々にしてあったのは事実だろう。それをいいことにやりたい放題だったのも事実だったかもしれない。
だが、今ではAIがしっかりと記録を残すので、そんないい加減なこともできない。
『それでは臨機応変に対応できない!』
という意見もあるかもしれないが、その辺りに生じる齟齬はロボットが負担してくれるので、大した問題にはならなかったりする。
ただ、そうなると今度は、
『何でもかんでもロボットに押し付けて人間はのうのうとしてるのか!?』
という意見も出てくるわけで
『ロボットにも人権を!』
って感じで活動してる団体もあるそうだ。
が、これについては、そもそも人間は、人間社会における矛盾や齟齬を負担してもらう為にAIやロボットを発展させてきたわけで、『ロボットに人権を』というのはお門違いなんだろうな。
しかも、その手の活動家達は、
『ロボットにも心がある。感情がある。それを尊重しろ』
とか言ってるらしいが、メイフェアを見る限りでも、下手に感情などを持たせると逆に苦しむことになるのは明白だと思うんだよ。
人間がロボットに感情を再現しないのは、
『苦しまないようにする為』
というのもあるんだろうなというのが、メイフェアの事例からでも推測できる。
せっかく苦しまないようにする為に感情を与えないようにしてるのに、<活動家>達は何故、ロボットが苦しむ方向に話を持っていこうとするのか、理解に苦しむよ。
なんてことを思いつつ、俺は、嶽と名付けたその<鵺竜>の動向を見守っていた。
嶽は、蛟と同じく、この台地の生物ではまったく歯が立たない規格外の怪物だった。
体長四メートルほどにもなる、サイゾウの近似種ですら、大型犬が子犬をあしらうように叩きのめしてしまう。
しかも、比類なき凶暴性と獰猛さと底なしの食欲を持ち、さらにはとんでもない速度で成長していることも分かった。
この台地の麓の<鵺竜達の世界>で生き延びる為には、少しでも早く体を大きく強くしなければいけないが故の、生物としての戦略なんだろう。
とは言え、この台地の生態系においてそれは、明らかに過剰すぎる。オーバースペックもいいところだ。
その上、気になる点がある。
嶽は、時折、自分を監視している母艦ドローンを睨み付けるようにして見るのだ。
まるで、自分が監視されていることに気付いているかのように。
そんな姿を見た瞬間、俺の脳裏によぎるものがあった。
「……凶……?」
そう。グンタイ竜の凶が自分を監視していたドローンに向けた視線とそっくりだったんだ。




