誉編 責任の所在
新たな<鵺竜>の出現に俺達が緊張感を高めている一方で、誉達は穏やかな毎日を過ごしていた。
もしあの鵺竜が、こちらに近付いてきた時、誉達のこの暮らしも脅かされるだろう。
「こちらに近付いてくる様子がなければ、手は出さない。だが、万が一こちらに近付いてくるようなら、排除する。
ということでいいかな?」
シモーヌ、光、灯、順、エレクシア、イレーネ、セシリア、そしてタブレット越しにメイフェアも参加しての<会議>で、俺は状況を説明の上、単刀直入にそう告げさせてもらった。
回りくどいことをあれこれ言ってても始まらないからな。
「はい、それでいいと思います」
シモーヌが真っ先に応えてくれた。蛟の時もそうだったが、生物の専門家としては思うところもあるだろうに、それを抑えてまず家族のことを優先してくれたからこその言葉だった。
「私は反対する理由がないよ」
とは光。続けて灯も、
「私も。これは生存競争だよ。躊躇ったら死ぬのは私達だからね」
俺を真っすぐに見詰めて言う。
「私達メイトギアは、人間を守る為に存在します。脅威に対して対処するのは本来の機能ですので、マスターの決定に従います」
メイトギアを代表して、エレクシアが応えた。実はそれまでの僅か数秒の間にメイトギア同士で通信し、互いにインストールされている法規を精査。規定上問題がないことを確認した上での返答だった。
「分かった。灯の言う通り、これは生きる為の戦いだ。おそらく向こうは容赦も遠慮もしないだろう。
現状の俺達の装備では、あの巨大生物を生かしたまま台地の麓に送り届ける方法はない。なので向こうがこちらを避けてくれない限りは、こちらとしても断固とした対処を行うしかない。
正直なところ、こっちに来ないことを祈るだけだ」
その俺の言葉で、<会議>は僅か十五分ほどで終了した。正直、ただの<アリバイ作り>と言われてしまえばその通りだろう。ロクに反対意見も出ないようなそれじゃな。
だがこれは、
『判断の責任は俺にある』
ということを改めて確認するためのものでもある。
法律上、とやかく言われる可能性は現状ではないものの、今後、ここにできてくるかもしれない<人間の社会>において『判断に責任を持つ』ということを蔑ろにしてほしくないから、俺が率先してそれを示さなくちゃいけないと思う。
今回の会議の内容は、エレクシア達がしっかりと記録してくれている。
『昔のことだから仕方ない』
では、済まされないんだよな。




