誉編 暴挙
はっきり言って、自分と自分の家族の命以外に大切なものなんて、俺にはない。
エレクシア達は、<俺と俺の家族の命を守る為に必要な道具>だから大切ではあるが、両者を天秤に掛けたらどちらを優先するか結論は出ている。
ロボットであるエレクシアの場合、最悪でもバックアップ用のストレージさえ回収できれば、『彼女と再会できる可能性を残す』ことはできるしな。その辺りはやはり人間とは違う。
冷徹ではあるが、<生きる>とは結局そういうことだという覚悟が今はある。ここに不時着したばかりの頃はそこまでの覚悟は持てていなかったものの、命のやり取りを毎日見続けていたら腹も据わるさ。
それでも、エレクシアのことも本当に大切なんだぞ?。単なる道具以上の存在なのは事実だ。そこは変わっていない。ただ、
『彼女は機械なんだ』
という現実を認められるようになっただけだ。
人間社会にいた頃には、
『命より大切なものを穢された』
と言ってキレる奴は俺の周りにもいたが、それって要するに、命ってものに対する実感に乏しいっていう気しか今はしない。
<命より大切なもの>ってなんだ?。自分が死ねばその<命より大切なもの>に永久に触れることはできなくなるんだぞ?。
命より大切だと思いたいのは本人の自由かもしれないが、他人から見ればその拘りは理解不能なものでもある。
だが、こっちの生死に関わるようなものでないなら、こちらとしても関知はしないが。
しかし、命に関わるようなものでないことに拘ってキレて暴れて他人に牙を剥くなら、それは社会的には<リスク>と見做されるだろうな。
『命より大切なものを穢された』
と言って暴れてる奴の行為に対して、
『何をしてるんだ?』
と批判すると、
『家族が殺されても同じ事が言えんのかよ!?』
などと言い返してきたリもするが、はっきり言わせてもらうと、
『そんなものと俺の家族の命を同列に扱うな!』
というのが正直な印象だな。他人の家族の命と、物品やコンテンツとを同列に扱うなど、正気を疑うレベルの暴挙だと思う。




