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誉編 実利

『互いの違いを認め合うなんて綺麗事だ!』


俺がまだ人間社会にいた頃、そんな風に言うのがいた。


と言うか、それはまさに俺自身のことだな。他人を敵と見做して攻撃的になって、それで結局、元々は敵じゃなかった相手まで敵に回して、


『自分は孤立無援だ!』


みたいなことを言ってたんだから、ほとんど<マッチポンプ>のようなものだろう。


他人に対して攻撃的にならなくても元々敵対してくる人間は確かにいる。が、だからと言って自分が攻撃的に振る舞えば、本来なら味方になってくれたかもしれない相手まで敵に回すことになる可能性が高くなるんだ。


何をしてるのかもう意味不明だよ。


他人に攻撃的になるなら、反撃され、自分が嫌な思いをするのも覚悟しなきゃならないのに、


『一方的に他人を攻撃したいが、自分が他人から攻撃されるのは嫌』


とか考えていたんだから、これを<愚か>と言わずに何と言う?って話だよ。


さりとて、


『自分は攻撃されたくないが一方的に攻撃したい』


というのは戦術の大原則でもあるのが厳しいところだな。もっとも、<戦術>の場合は反撃されることを前提に、反撃されないように戦術を練るわけだから、まあ実際にはその辺りは覚悟の上ってことであるか。


しかし世の中には、自分から仕掛けておいて反撃されたら被害者ぶるのがいるというのがな。


なんてことを、ほまれ達が暮らしている環境を見ながら思う。


ほまれは今、他の群れにちょっかいをかける必要がないから自分から攻撃を仕掛けることはしない。


だが、もし、今の餌場が何らかの理由で失われ、群れを生かす為には他から奪わないといけないとなれば、おそらく躊躇はしないだろう。そういう判断を果断なく行える強さがあいつにはある。


敵をわざわざ作らないことは大切だが、生きる為には自分から攻撃しなきゃいけない時もあるというのを分かってくれてるようだ。


しかしその一方で、あいつにその判断をさせたくないというのが<親心>というものかもしれないな。なにしろ、ただでさえ日常的に危険に曝されてるんだ。そこにさらに自分から攻撃を仕掛けて危険を増やすというのはできれば避けてほしい。


だから、ほまれ達の餌場が失われないように、俺達人間がそれを壊してしまうことのないように、俺は気を付けて行きたい。


たぶんこれまでも何度も言ってきたことだが、


『互いの違いを認め合う』


『自分から敵を作らない』


『自然環境を守る』


のは、決して綺麗事の<お題目>じゃない。極めて利己的な合理性の上に成り立つ考え方なんだ。


それを『綺麗事だ!』と嗤う人間こそ、現実が見えてないと今は思う。確かに綺麗事のお題目としてそれを唱えてる人間もいるだろうが、しかしそこにはまぎれもない<実利>があるんだよ。



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