誉編 ブレと成長
今までの記録を自分でも振り返ってみて、少々、『ブレてる』ともとられかねない部分が散見されるのは、確認している。
だが、人間は、経験を積むことで<成長>し、自身の考えや信条などを細かく修正していくことができる動物だ。
だから、以前にも言ったように完全に一切の<ブレ>がない人間は存在しないし、もしブレや矛盾がまったく存在しない奴がいたらそいつは<人間>と見做されない可能性がある。
例えば、フィクションの登場人物で少しのブレも矛盾もないようなのがいたとしても、そもそもそれは実在する生身の人間ではないのだから、別に不思議でも何でもない。
あくまで、
『そういうキャラクターとして描かれている』
だけだからな。
俺は、フィクションの中で何がどう描かれてようが基本的にはどうでもいいので、わざわざそれを名指しして批判したりするつもりもない。
ただし、そういうフィクションを真に受けてあたかもそれが現実であるかのように言ったりするのについては批判もするだろうけどな。
なんてことを、エレクシアのデータベースに残ってた大昔の<漫画>を読んで思ってしまった。
それは、完全無欠のアウトロー系のヒーローが悪逆非道な悪漢を次々とぶちのめして事件を解決していくという、実は今でも伝説的な人気を誇ってたという漫画だった。
だが、正直、俺は昔、その種のヒーローものが大嫌いで、鼻で笑ってた時期があったんだ。
『そんな完璧なヒーローがいるんなら、俺の妹を救ってくれよ……!』
って考えて。
今から思えば自分でも呆れるくらいに本当に荒み切ってたな。
まあ、その頃の俺から見ても今の俺は変わり過ぎだろうし、これもある意味では<ブレ>だろうな。
でも、人間だけじゃなく生き物である以上は動物にだってブレはある。
命は、子供達がボスである誉に対して不敬な真似をしたら首を押さえつけたりもするものの、その一方で、他の子供達からちょっと乱暴に構われたりするとすっ飛んできて庇うんだ。
どうも、自分と碧と静以外が厳しく接するのは嫌なようだ。
とは言え、その辺は、命自身がまだまだ未熟な若輩者で新米ママっていうのもあるだろうから、取り敢えずは様子を見守るだけに留めてる。
そうやって経験を積んで、ブレながら改めながら成長していくのはボノボ人間も同じか。
<新米ママ>ということであれば、光も同じ。
妊娠を経ずに母乳が出るようになるくらいに強い母性を発揮してても、慣れない育児にあたふたしている様子も見られる。
セシリアやシモーヌの助けを借りて、毎日が学びの場という状態だな。
俺も力になりたいんだが、灯とシモーヌとセシリアの壁は厚い。
順はある程度、手伝わせてもらえてるんだが、これは順が実際に父親になった時のための予行演習ということか。




