誉編 新しい家族
誉から受け取った赤ん坊をすぐさまセシリアに手渡すと、彼女は素早く光莉号へと駆け込んだ。
救急対応をする為だ。
俺が受け取った時には動いてたから、十分、間に合うだろう。誉の想いを無駄にせずに済みそうだ。
「赤ん坊は確かに預かった。俺達の子供として育てる。
ありがとうな、誉」
「……」
もうすっかり<大人の男>になった誉だが、その顔にはやはり密の面影がある。それがなんだか嬉しかった。
しかし、誉は俺と積もる話をするでもなく、ほんの何秒か俺を見詰めた後、身を翻して木に飛び移り、あっという間に密林の中に消えてしまった。
まあ、馴れ合うつもりはないということだろう。あいつがそれを望むなら、俺がとやかく言うことじゃない。
俺も数瞬、誉が姿を消した密林を見詰めた後、赤ん坊の様子を見るために、シモーヌと一緒に光莉号の医務室へと向かう。
すると赤ん坊は、治療カプセルには入れられず、そのままベッドの上で処置を受けていた。
「健康な女の子です。心拍、脈拍共に正常。誉様が素早く搬送してくださったおかげですね」
赤ん坊をガーゼに包みながらセシリアが言う。
その言葉に、ホッとした空気が広がる。俺とシモーヌと光と灯は互いに顔を見合わせて、笑顔になっていた。
順はさすがにまだこういうことに対して人間としての反応を見せることはない。
「…?」
何を見詰め合ってるのかいまいち分かっていない様子で俺達を見ていた。
まあそれは別に構わない。順はまだ、人間としてのメンタリティについては幼い子供と変わりないしな。
ただ、俺達が安堵している様子であることに彼も安心してるのは分かる。
それで十分だ。
ちなみにこの時、誉の弟である焔と新は、まるで気にすることなく普段通りだった。
家の中で彩と一緒に寛いでた焔はともかく、屋根の上で一部始終を見ていた新もこれといって反応することもなかった。
これもまた、人間とは違うメンタリティを持ってるということなんだろう。巣立ってしまえばある意味じゃライバルだからな。
それでも自分の兄だというのは分かっていたのか、これといって警戒する様子も見せなかったから十分だ。
こうして、俺達に新しい<家族>が加わった。
「私が育ててみたい。いいかな、お父さん」
光がそう言って赤ん坊を抱きかかえる。
その姿は既に<母親>の空気感を纏っていただろう。
そんな彼女に、俺は頬がほころぶのを感じていた。
「ああ、いいよ。光の子供として育てればいい。俺達も協力する」
「ありがとう。じゃあ、この子の名前は和にする。子供ができたら付けようと思ってたんだ」




