蒼穹編 人間の営みの一端に
サディマと直接対面してハートを射抜かれてしまったらしい蒼穹ではあるものの、だからといって『帰りたくない!』的に駄々をこねることもなかった。
コーネリアス号内のプラントで野菜がホビットMk-Ⅱらの手によって収穫されるのを見届け、灯と一緒に台車に積まれたオリコンをカーゴルームへと運び、一つ三十キロはあるそれを軽々と持ち上げてローバーの荷台に積み込んだ。基本的に種族の特徴として『小柄で瘦せ型な』のが普通であるアクシーズらしく一見すると『小柄で華奢な女性そのもの』な蒼穹だが実は引き締まった精悍な体つきをしていて、地球人の力自慢でさえ圧倒するスペックは備えてるわけだ。
オリコンは全部で十二。総重量は四百キロほどになるはずだが、蒼穹達家族の食糧としては精々三日分程度の量でしかない。つまり、
『ちょっとスーパーに買い物に行った』
くらいの感じなんだよ。まあ厳密には、
『知り合いの農家に作物を貰いに行った』
と言った方が近いかもしれないが。
いずれにせよ、蒼穹にも<人間の営み>の一端に触れてもらったんだ。まあ普段から実際に畑仕事もしてるからそっちの方がもっとしっかりと人間の営みに触れてるとも言えるかもしれないものの、これも<一端>には違いない。
しかしまさか別の意味での<人間の営みの一端>を蒼穹自身が見せてくるとは思わなかったよ。
だが、サディマの言う通り『レディの想いを茶化す』のは野暮の極みだし、ここはとにかく見守ることにしよう。そこは<レディ>に限らないが。未来の想いについても茶化すつもりはないし。
『子供を気遣うのはつけ上がらせるだけだ。増長させるだけだ』
なんてことを言う奴も地球人社会にはいたが、それは根本的に間違っていることが分かってる。判明してる。気遣ってもらったこともない人間が他人を気遣えるようになるなんてことの方がそもそも普通じゃないんだ。それこそ<ご都合主義的>に運に頼り切ったものでしかない。親がそんな態度でいるのは『責任の放棄』でしかないんだよ。
子供を気遣うことでつけ上がったり増長するのは、気遣ってもらえる前に蔑ろにされてきたりしてその反動によるものだというのも無数の事例を詳細に検証したからこそ分かってるんだ。なのにいまだに『子供を気遣うのはつけ上がらせるだけだ。増長させるだけだ』だとか言うのはただただ自分を甘やかしたいからというのも分かり切ってるよな。
そりゃ親がそんな姿を見せてれば子供も真似するよなあ。




