蒼穹編 レディの想いを
サディマと対面した蒼穹が、いつも以上にあどけない感じで視線を泳がせつつ下を向いた。しかも耳が明らかに赤い。
「おんやあ? どうしたのかな? 蒼穹あ?」
灯がさらに悪戯っぽい様子で問い掛けると、
「……!」
蒼穹はそれこそ俯いて黙ってしまった。
サディマとはこれまでにも何度か画面越しでは対面している。しかしその時はここまでの反応は見せなかったはずだ。なのに今は明らかに動揺している。
見た目にはもう成人女性のようにも思える蒼穹だが、実年齢はあと三ヶ月ほどでようやく九歳になるところで、だからまだ八歳なんだ。野生のアクシーズならもう十分に成体ではありつつ、さすがに<人間>としてなら八歳を<成人>と見做すのは難しいよなあ。
が、<恋心>的なものについてはたとえ幼児であっても抱くことがあるのは不思議じゃない。サディマの人となりをよく知らない段階でのそれはあくまで『見た目から入った』ものだろうが、それで言ったらサディマがキャサリンに一目惚れしたのも結局のところそれだろうし、そこはあれこれ言っても野暮なだけか。
サディマもさすがに蒼穹の様子に察したみたいで、
「お母さん、レディの想いを茶化すのはあまり感心しませんね」
と灯に対して釘を刺してきた。すると、
「いや、こりゃ失敬。ごめんね、蒼穹」
素直に自身の非を認めてすぐさま謝れるところも灯のいいところだな。我が娘ながら立派だと思う。
「いいよ、別に……」
蒼穹は拗ねたように口を尖らせつつもやはり耳は真っ赤なままで照れているのがよく分かった。
しかし本当に意外な一面を見ることになったな。未来や黎明やイザベラのやり取りについてはあまり関心もなさそうにしていた蒼穹が。
でも、それでいい。
『人の気持ちが分かる』
なんてのは大嘘だというのが完全にばれてしまったしな。人間の心理を読み取り最適な対応をすることを目指して作られているメイトギアですら完璧に理解できてるわけじゃない。ましてや<自我>を持ち『自分の見たいものを見て』『自分の聞きたいものを聞く』傾向が強い人間に<自分じゃない人間の気持ち>なんてのが本当に分かるわけじゃないんだ。だから蒼穹に俺が思いもしなかった一面があるのなんて当然すぎて驚く必要もない。
とはいえ、サディマはキャサリンに想いを寄せてるわけで、はてさてどうなることやら。<シェア>はここでは当たり前のことだからそれはいいにしても、あくまで双方の合意があってのものなのは変わらない。サディマが蒼穹の気持ちに応えてくれなければ成立しないんだ。




