蒼穹編 プロローグ
蒼穹はアクシーズである。灯と久利生の娘であり、俺の孫娘だ。
身体能力は母親の灯からアクシーズとしてのそれを受け継ぎ、垂直跳びは優に三メートルを超える。これでもアクシーズとしてはかなり下の方らしい。まあアクシーズがジャンプするのは滑空するためだから翼を持たない灯や蒼穹には基本的に関係ないが。
その代わり、蒼穹には灯の<ミレニアムファルコン号>と同じくウルトラライトプレーンである<リアべスペシャル号>がある。それを用いれば滑空することで空を飛ぶアクシーズでは決して届かない距離を飛行することができる。
何しろ母艦ドローンを随伴させて給電を続ければ体力の続く限り飛び続けることもできるんだ。母親の灯に、
「今日はどこまで行けるか挑戦してみる?」
と誘われた時には最終的に五百キロ近く飛んでいたしな。ちなみにその時は母艦ドローンと共にワイバーン一型とドーベルマンMPMを随伴させた。万が一のことがあった時に対処できるように。ちなみにワイバーンシリーズもこまめにアップデートを繰り返していて性能が格段に向上している。まあそれでもウルトラライトプレーンの範疇には収まってるから<作戦行動>的な運用にはあまり向かないのもあってその辺は<ハチ子>の独壇場ではある。ワイバーンシリーズはあくまで、
<空の宅配バイク>
<空の小型トラック>
的な形で小規模の物資輸送が主な役目だった。風さえ掴めれば<滑空>という形で飛行できる分、無給電状態における単体での航続距離がハチ子よりも長いんだ。オートジャイロであるハチ子は推進力を得るためのプロペラが止まると降下するだけだし。
あと、ハチ子は音が少々五月蠅い。<ヘリコプター>に比べればまだマシでもワイバーンシリーズよりは明らかに五月蠅いんだよ。で、給電のために必要な母艦ドローンは仕方ないにしてもあまり五月蠅いとそちらに気を取られて<空のツーリング>を楽しめないだろうし。
実際、灯も蒼穹もプロペラを止めて滑空するのが好きだそうだ。その方が、
「風の音色を楽しめるしね」
とのこと。割とガサツな印象の強い灯らしからぬ詩的な表現ではあるもののなんとなく言いたいことは伝わってくる感じがする。しかもプロペラを止めても<アクシーズとしての感覚>を研ぎ澄ませれば実に自在に飛ぶことができる。人間が使う<グライダー>とはまるで違う挙動を見せることができるんだ。
それについても灯は蒼穹にしっかりと教授していた。<母親>として<アクシーズの先輩>として。




