閑話休題 蒼穹の認識
蒼穹はアクシーズである。
血縁上の母親は灯で父親は久利生遥偉だが、彼女には<もう一人の母親>がいる。ビアンカだ。そしてすでに鬼籍に入っており面識もないがかつては來という母親もいた。実母である灯とビアンカと來が実父である久利生遥偉を<シェア>することで今の関係が出来上がった。
しかし<一夫一妻制>が基本であるコミュニティで生まれ育った人間にとっては異様に思えるそれも、<一夫多妻制><多夫多妻制>を取り入れているコミュニティで生まれ育てばそれが当たり前になることで違和感を覚える者もそれほどいないだろう。
実際、地球人社会においても<完全自治>を獲得した植民惑星の中には<一夫多妻制><多夫多妻制>を採用しているところもある。もっとも、それはそれでいろいろ制限も多く大変なので実質的に『パートナーはお互いに一人』という例が大半だったりするそうだが。
なにしろ、
『すべてのパートナーを経済的にも物理的にも精神的にも平等に愛さなければならない』
ので、それを実現できるだけの器を持った者でなければ維持できないからだ。パートナー側にそういう形での不満が出るとたちまち裁判が起こされほとんどの場合はその主張が通ってしまい莫大な慰謝料を背負うことになるからである。
ただしちゃんとそういう関係を維持できる者の場合はそもそもそんな裁判を起こされることがないし起こされたとしても早々に和解できるので、
『揉める時点でそもそもそれだけの器がなかった』
と見做されるのが一般的なのだそうだ。この点、久利生にはそれだけの器が備わっていたようで、灯からもビアンカからも強い不満は出ていない。特に灯の方は今の関係に大満足していてとても幸せそうだった。
そんな灯の娘である蒼穹も、今の関係に疑問は抱いていない。彼女が生まれる前に亡くなっている來のことはほとんど知らないのでこれといって感慨もないものの、異母兄である未来の実母であることは承知していて、その存在を否定するようなことは口にしない。幼い頃に、
「なんでみらいのおかあさんいないの?」
的な疑問を投げかけることがあったくらいだ。その際にも実父である久利生遥偉から未来の実母である來がすでに亡くなっていることや久利生遥偉がちゃんと來についても愛していたのを丁寧に説明されたので彼女なりに納得しているのだろう。
ただ、自分が一人の男性を他の誰かとシェアするとなるとその点については今もピンときていない。それはまだ彼女が<子供>だからかもしれない。




