キャサリン編 解けない謎
だが、俺個人の感情としては腹に据えかねるのも事実ではあるものの人間としては本当に珍しくもない<普通の人達>だったんだと思う。だから俺がどんなに恨み言を口にしたってそれを発信したってあの人らの肩を持つ擁護する味方になる人間だって当たり前のように出てくるんだろうな。
別にもうそれは構わない。ここから地球人社会に戻る術がない以上、すべては<今さら>だ。お互いに『死んだ』のと同じだし。あちらにしてみても俺が何か<事件>でも起こさないかひやひやしていただろう。死ねばその心配もなくなる。
もっとも、向こうでの公的な記録としては<消息不明>になってるはず。死んだことも確認できていないから本当に安堵できるわけじゃないかもなあ。
でもまあ戻れるとしても戻る気にもなれないのもまた事実。向こうにはなんの未練もない。仮にも血縁があるにしても他人より遠い存在だ。きっと親戚が亡くなっても碧に対するそれほども気持ちが揺らがないだろう。だからこそこんな気持ちになれる関係を築けたのが我ながら驚きでもある。
その点、サディマはキャサリンとどういう関係を築くことができるのか。そもそも関係を築くことができるのか。彼女としては関わるつもりは毛頭ないだろうし。
……ない、よな……?
ただ、サディマの気配を察知したかのように雷雲に向かって走り出した彼女の振る舞いについては『関わるつもりは毛頭ない』と言うには違和感もある。
キャサリンはなぜ、そんなことをしたんだ? 単に<顕現した人間の気配>を感じとっただけなのか、それとも何か他に理由があるのか。
でもなあ、別にサディマのことを気にしてる様子もまったく見られないんだよな。彼のことなどまったく忘れたかのようにこれまで通りの淡々とした毎日を送ってる彼女の様子からは。
彼女の方からはその時に何を考えていたのか語ってくれることはないのは容易に想像できる。推察しようにも情報が少なすぎる。
ただ、この手の<解けない謎>というのは生きていれば日常的に必ず付きまとう。<自分じゃない誰かの気持ち>なんてのはその最たるものだろうな。電脳化により他人と直接意識を交わすことができるようになっても、実はその辺りは解明されなかったそうだし。
<相手の考え>を自分の脳が解釈した時点でそれはもう<相手の考え>じゃないんだよなあ。<自分の解釈>になってしまうんだ。実際、理解したはずのそれに齟齬が生まれていていろいろと面倒なことになったりもしたらしい。




