キャサリン編 碧、おつかれさま
ああそうだ。<死>は生き物にとっては決して避けられないものだ。<寿命>というものを持たないとされている生き物さえ永久に生きられるわけじゃない。と言うかあくまでそれ自体が<生存戦略>なだけで<不死>ってわけじゃないし。
対してAIやロボットは『生きてない』から『死なない』だけなんだよな。と言うか結局のところは<データ>こそがAIやロボットの本体であって筐体や機体はただの<器>にすぎないし、データが残り続ける環境さえあれば少なくともその間は永久不滅とも言える。
でもまあ考え方によっては、
『有機生命体とは異なる形の命である』
とも言えるのかもしれないが。しかしそこまで行くと今度は、
『生命とは何か?』
的な方向に話が進んでしまうんだろうな。
だが、今はそんなのとはまったく関係なく一つの命が終わりを迎えようとしてるだけなんだ。
「碧、今まで本当にありがとう。お前と出逢えたから誉は満たされた生涯を送ることができたんだと思う。誉の父親として感謝しかない……」
それが俺の嘘偽らざる気持ちだった。碧に出逢っていなければ誉の生き方はもっと違っていたかもしれない。ま、これもただの<たられば>だから詮無い話ではある。碧と出逢い、送ってきたそれこそが<誉の生涯>なんだから。
そうして俺が見守る中、碧が静かに息を引き取った。俺が寝ていたりした間に息を引き取った子供達もいるのに<息子の嫁>を看取るんだから何とも皮肉な話だよ。でも構わない。そんなのも含めて<人生>ってものだし。
「碧様の心停止を確認。亡くなられました」
メイフェアが淡々と報告してくれる。冷たいようにも思えるが、別に意図的に冷たくしてるわけじゃないさ。人間は感情によって敢えて冷淡な態度を取ったりすることもあるが、ロボットはあくまで自身の役目として伝えてくれてるだけでそこに感情はない。メイフェアは無闇に悲しんでいるような様子を見せるのは俺達にストレスを掛けるのが分かっているから<そんなふり>もしないだけだ。
「丁重に葬ってやってくれ。誉の隣に……」
俺が告げると、
「承知いたしました」
丁寧に答えて遺体の処置を始める。一応、二十四時間待ってから埋葬することになるからな。あくまで本質的には<動物扱い>だからすぐに埋葬することにしても反対はしないが、俺の意向を酌んでくれてるんだよ。これが人間(地球人)の遺体の場合だと当然のように警察に通報し検視を経ることになるが。
なんて世知辛い手続き論は脇において、
「碧、おつかれさま。ありがとう」
俺は誉のパートナーを悼んだのだった。




