キャサリン編 穏やかなものであってほしい
俺の子供達はもう彗を残すだけになった。その彗もすっかり衰えて最近ではあまり飛び回ることもなくなり、食欲もあまりないのか巣の周りで小動物を捕らえて食べるだけになっている。
それはつまりもう縄張りを維持することもできなくなっているわけだから普通は他のアクシーズに縄張りを奪われてまさしく『死を待つだけ』になるところがドーベルマンDK-aらが代わりに縄張りを守ってくれているからこそ穏やかに過ごせているんだよな。
そこからも分かる通り、『人間(地球人)じゃない』からといってロボットは軽んじたりしないんだよ。あくまで人間(地球人)である俺が命じたからというのはあってもちゃんと丁寧に守ってくれるしそれについて不満を抱いたりもしない。愚痴もこぼさない。もうこの時点で、
『AIには(少なくとも人間のような)心はない』
のが分かるはずなんだ。どんなに規範意識が高く責任感が強く使命に燃えていても人間ってのは何一つ不満を抱かずにいられるわけじゃないからな。ついつい不満を抱いてしまいそうになる自分と何とか折り合いをつけることができるのが、
<理性的な人間>
ってことだろうし。
それで言うと『人間の感情を再現してる』はずのメイフェアも、<誉のパートナー>だった碧をここまで本当によく守ってくれたと思う。そもそも『人間(地球人)じゃない』誉を仮とはいえ<主人>として認めて彼に仕えてくれたのは『人間の感情を再現してる』からこそだろうが、しかしその一方で何一つ不平を口にせず不満を見せず尽くしてくれたのは確かに彼女に与えられたそれが<本物の人間の感情>じゃなかったからだろう。だから<自分の気持ち>と<使命>との間で葛藤することもなく揺らぐことなくここまでやってこれたんだ。
しかも彼女は誉からボスの座を引き継いだ轟のことも変わらず支えてくれている。これは、
『人間(地球人)であれば主人が守り抜いた場所に思い入れを持つことも珍しくない』
というのを再現しているゆえにだった。だがそれでも人間であればそれなりに思うところもあったりするだろうし葛藤してしまう部分もあるだろう。でもメイフェアにはそれが一切ないんだ。自分が<役目>と認識したことについて欠片も疑問を持たないんだよ。
そんなメイフェアに見守られ、碧はただ眠るように最期の時を迎えようとしていた。本人が苦しんでいるような様子がないのが俺にとっては何よりの救いだった。
死が避けられないものである以上、こういう形の死については穏やかなものであってほしいと俺は思うんだ。




