キャサリン編 本当におかしな生き物
そうだ。<野生の生き物におけるパートナー>も多くは、
『自分のために相手を利用してるだけでしかない』
のが現実だと思う。人間はそこに<愛情>というものを見出してドラマチックに捉えてしまったりするが、実際には驚くほどドライな関係だったりするんだよな。
ただまあ、誉をずっと支えてくれた碧のそれがそんなだったら寂しいなと感じてしまうのは確かにある。
高齢ということもあってか誉が亡くなってから新しいパートナーを作ることもなかった彼女だが、人間としてはそれが『愛ゆえに』と思ってしまったりするが、実際のところはどうなのか、それは碧自身にしか分からないだろうなと思う。
それでも彼女は誉のことが好きだったのは事実だと感じるよ。人間(地球人)よりはずっとドライな感覚だったとしても好きじゃなかったらそもそもあんなに一緒にはいてくれなかったと思うんだ。それが人間(地球人)の思う<好き>じゃなかったとしても、生涯を共にしてもいいと思ってもらえるものだったんじゃないか?
夕方。そんな碧が意識を失ったとメイフェアから報告があった。延命措置は行わないと取り決めているからメイフェアもただ見守ってくれる。心臓はまだかろうじて動いているがもう時間の問題だろう。
「錬是、何かあったのかい?」
彼の様子を見るために通信を繋げた時、開口一番、サディマがそう問い掛けてきた。洞察力があるのを感じるが、たぶん俺の様子があまりにも分かりやすかったんだろうな。だから変に誤魔化すよりもと考え、
「ああ、息子のパートナーだった子が危篤状態なんだ。おそらくもう夜までもたないと思う……」
正直にそう口にした。
「それは……なんと言ったらいいか……胸が痛いね」
気遣ってくれる彼に、
「ああそうだな。ここで生まれた俺の子供達の人生は俺よりずっと短かったが、とても満たされたものだったと思う。それを支えてくれたパートナーだったんだ。もう俺にとっても娘みたいなものだったよ」
俺も努めて冷静に応える。しかしそれは自分でも滑稽なくらいに無理をしているのが分かってしまった。碧のこともそうだし、誉のことを思い出して込み上げてきてしまったんだ。
ここでのことの大まかな点については彼に渡した資料にも記されていたから俺が密達<獣人>との間に子を生してその子達のほとんどがもう亡くなっていることも知ってくれている。その彼の前でもこうして強がってしまうんだから人間というのは本当におかしな生き物だよ。




