キャサリン編　一から出直し

＜前世の記憶を持っているだけの幼児＞

これは実に『言い得て妙』だと思う。なにしろ＜記憶＞はあくまでも単なる＜情報＞にすぎない。ロボットが他の機体の＜データ＞をコピーすればまったく同じように動作できるのは、そもそも、

『そういう風に作られている』

からだ。与えられたデータをそのまま利用できるように基礎的な性能を最初から確保されている。だから＜完全に想定外のデータ＞の場合だと、

＜それを活かすための最適化＞

が必要になって結果として多少の時間を要してしまう。まあそれでも人間とは比べ物にならない速さでそれを成し遂げていくが。そういう設計をされていることで。

しかし人間は＜情報＞だけあっても自身の感覚として身に付いていないと十全に活かせない。ましてや幼児ともなれば活かせる云々以前に精神的にもたない可能性が高いそうだ。そういうフィクションが持て囃されているからAIの方も理解するために検証してみたとのこと。すると何度シミュレーションしても幼児が＜前世の記憶＞、それも普通に成人として生きてきた記憶なんかを取り戻しては＜幼児としてのメンタル＞ではその情報を受け止めきれずに精神崩壊するという結果になるようなんだ。

AIはその点、＜崩壊する精神＞を持たないからそこは心配しなくて済むもののやはりすぐには十全に活かすことができないとのことで、時間が必要になる。

ゆえにまた、

『一から出直し』

的な状態になってしまうだろうな。とはいえその状態はそんなに長くないだろう。なのでいくつかのグループに分けて交代で切り替えていくという方法も考えられる。

ただ、そうなると＜ドウ＞がそれまでと同じくキャサリンに仲間として認識してもらえるかどうか。多少のバージョンアップについては問題なかったとはいえ、キャサリンにとってはドウが＜まったくの別人＞になってしまう可能性も否定はできない。

だからドウについては＜AIの切り替え＞は見送った方がいいかもしれないとも思ってる。このことについても＜朋群(ほうむ)製AI＞の実現の目途が立った辺りでサディマにも相談に乗ってもらおうと思ってる。でもなあ、今の状態でキャサリンとドウの関係が成り立ってるならそのままにしておくのもありかなとも思うんだ。

ドウの存在がキャサリンにとって何かのリスクになってるわけでもないし。

ああそうだ。＜朋群(ほうむ)人全体＞を見ると＜朋群(ほうむ)製AI＞の開発は必須でも個々の事例では必ずしもそうとは限らないものもあるだろう。