キャサリン編 未成熟なAI
保護されて四日が過ぎたが、サディマはもうずっと以前から仕事としてそうしていたかのように今日も朝から端末に向かって<作業>をしていた。その仕事ぶりは俺達が何年もかけてやってきたことをたった一日余りでこなしてしまうほどだった。いくら俺達がAIについては素人で効率も要領も悪かったとはいえ、あまりの差に圧倒されずにはいられない。
しかもそれがぜんぜん大変そうに見えないんだ。鼻歌交じりにリラックスした様子で、それでいて途轍もなく集中しているのが分かる。かと思うと、
「ふう」
と息を吐きながら椅子の背もたれに体を預けて首や肩をほぐすように動かし始め、それから立ち上がってコーヒーメーカーを自ら操作し始めた。その様子にも疲れは見えない。ただただ気分転換のために一息吐こうとしてるだけのようだった。
決して無理はせず、それでいて途轍もない集中力を発揮して一気に進めるのが彼のやり方のようだ。自身のケアも忘れない辺りはルイーゼとは違っている印象もある。ルイーゼは下手をすると気を失うまで集中していたりするし。シモーヌもそこまでじゃないもののたまに寝落ちしてたりするからなあ。
ただ、そこは俺も似たようなものかもしれない。こうやって自身の考えを綴っている時はかなり集中して見えるとのこと。さすがにサディマほど長時間じゃないが。
たぶんサディマが見せている感じで俺が自身の考えを綴っていけば、おそらく二日ほどで長編小説一本分くらいは書けてしまうだろうし。つまり彼の仕事ぶりもその感じということだな。
でもなあ、そこまでやっても『AIを作る』というのは何年もかかったりするそうなんだ。今のAIは新規で作ろうとするとそれくらいは当たり前と。それも『流用できる部分は流用して』で。
そもそも<完全に新しいAI>というのを作るのはほとんど不可能に近いらしい。<まともに使えるもの>としては。<子供の玩具>程度のものならまだしも。
そりゃそうか。今のAIを形作っているのは数千年に亘る<蓄積されたデータ>だからな。そのデータに圧し潰されずにフラットな思考ができるものを新規で作るとなると現実的じゃないのも当然だろうなあ。
だから<朋群製AI>についても<地球人社会製AI>から流用できる部分は流用して作ろうとしてるわけだし。まあでもそこまでやっても出来上がるのは幼児同然の<未成熟なAI>であって、そこから経験を積んで成長していってもらう必要があるんだ。




