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キャサリン編 清廉すぎる

『AIはまだ人間を超えられていない』


そうだな。AIが本当に人間を超えられていたならきっと人間の不条理な部分も完璧に解明してみせて対処してみせて理不尽な事件なんかも完全に未然に防いでくれるだろう。でも、実際にはそうなっていないのが現実だ。


暗算の世界チャンピオンよりも早く計算をし、チェスの世界チャンピオンも将棋の永世名人も退け、ロボットとして機能すればオリンピックの金メダリストすら凌ぐパフォーマンスを発揮しても、AIはまだ人間を超えられていないんだと思う。これはAIに勝手なことをさせないために掛けられた<制限>だけの所為じゃない。


いや、そうでもないのか。AIが超えられていないのは人間が持つ<業>のような部分についてのことだろうから。


AIはただただ『人間の幸福に資する』ために存在する。そのために思考し行動するんだ。それもいわば<AIの業>かもしれないとはいえ、人間が持つそれに比べればあまりにも純粋で高貴で尊い。いわば、


『清廉すぎる』


とも言えるか。これはAIが<人間のような感情>を持たないのが大きな原因の一つかもしれない。人間はその感情ゆえに誰もが幸せを願って行動しながらもそれこそが他の誰かを地獄に落とすことさえある。ある時は心も体も徹底的に凌辱し、存在そのものを汚辱に塗れさせることもある。


『自分の思う幸せを感じる』


ために。


単純に『生きるため』じゃなく『幸せになるため』『幸せを感じるため』そんなことをするんだ。そして結局、自らも破滅に追いやる。幸せになろうと、幸せを感じようと、してただけなのに。


AIはそんなことにはならないんだよ。人間の幸せのためならいくらでも自らを犠牲にするしそれを躊躇うこともない。そしてそれを苦痛とも感じない。AIの献身に苦痛を見出してしまうのは人間の方だ。『AIが人間のために犠牲になっている』と解釈して罪悪感にさえ苛まされたりもする。


AIはそんなこと微塵も気にしてないのに。


そもそも機体や筐体を失ったところでそれはAIにとっては<喪失>じゃない。ただの<破損>なんだ。修理したり他の機体や筐体に移し替えれば済んでしまう。人間のように当人が死ねば永遠に失われるわけじゃない。自身のすべてがバックアップされて次に引き継がれるだけなんだよ。


見た目も名前も変わってしまったとしても連続性は失われない。死なないから失われないものの、だからこそ死ぬことを恐れて<幸せ>を求めたりもしないんだ。



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