キャサリン編 俺の努力じゃない
まあ人間の場合、心理状態が肉体に影響を与えることも多いから、そこに現れている反応を解析すればある程度は<心>も読めてしまうのもまた事実。もちろんそこは個人差が大きいだろうから単純に、
『バイタルサインの数値がこうだからこう』
とは断定できないもののその辺についてもノウハウが蓄積されることで精度が上がっていったわけだ。加えて<個人差>については主人のそばにいる間にデータを常に精査し最適化を図ると。
この辺は老化抑制処置の実用化により人間自身の時間が<持ち時間>が増えたのも功を奏しているのか。そこが少ないと最適化を図っているうちに人間の方が寿命を迎えてしまうことだってあるだろうし。
『八十歳程度ならまだまだ若造だ』
という状況であればこそ最適化を図る時間も十分に確保できるわけだな。
そういえばエレクシアとの付き合いももう百年以上になるのか。思えば彼女は早々に俺に馴染んでくれてたなあ。いや、メイトギアってのはそもそもそういうものなんだが、それにしても彼女は早かったような気がする。
これは俺がそれだけ単純だったということか?
まあなんにせよそのおかげで俺はこれまで生きてこられたようなもんだという実感もある。<虹色星団>に突入するなんて自殺行為もしてしまったものの直接自らの生命を断つ行為はせずにいられたのはエレクシアがそうならないように誘導してくれていたからかもしれない。と言うかそれはロボットとしては最優先事項か。<幸せ>なんてのは結局のところ生きていてこそだし。
『死んだ方がマシだ』
みたいなのがあるのは事実でも、少なくとも病気や怪我でまともな生活を送れなくなるなんてのはほとんどなくなったし。光莉のような事例は本当に例外中の例外だったわけで。
なんでそんなことになってしまったのか俺にも分からない。もちろん原因となるものはあったにせよ『こうすれば必ずこうなる』わけでもなかったんだからどこまいっても『運がなかった』って話だな。いずれ完全に解明されることもあるにしても『解明される前にそうなってしまった』のはやっぱり<運>としか言いようがないだろう。
そんな俺の前にエレクシアが現れてくれたのもまあ<運>なわけで。
だから<当人の努力>だけで何でもかんでもどうにかなるわけじゃないのも事実だと俺も思ってる。もちろん当人も努力しなきゃいかないのは確かでありつつ、俺がエレクシアと出逢えたのは<俺の努力>じゃない。たまたまそこに彼女がいただけだ。




