キャサリン編 何か掴めそうな予感
『人間として生まれたのに野生に還るとはどういうことか?』
地球人は<野生回帰能力>そのものを失ってしまったからどれほど人里離れたところで文明を否定して生きようと<野生化>はしない。生まれた時点で<獣>として育てられればかなり<野生の獣>同然に育ったりすることもあるらしいものの、そもそも免疫機能が桁違いなことで生き延びられる可能性が極めて低いからたまたま生き延びられた事例を挙げて、
『野生化した』
と言ってもそれは地球人という種そのものに当てはまるとは言い難いだろうさ。
対して俺の子供達は、人間として生きている光や灯でさえ裸で何も道具を持たずに自然の中に取り残されても自力で生きていけるだろう。だから、
『朋群人は野生回帰能力を残している』
という前提を盛り込む必要があるだろうな。そして自ら望んで野生の世界で生きることを選択したのならそれを尊重する必要も出てくると思う。<人間>である以上は見捨てることはできなくても地球人の場合はただの自殺行為でしかない生き方も認めなきゃ駄目になるはずなんだ。
「そういう部分については私もまだまだ理解できないから時間が欲しい」
サディマもそう言っている。と同時に、
「彼女を見ていると何か掴めそうな予感もあるんだ」
タブレットに映し出されたキャサリンの姿を見てそんなことも口にした。事情を知らない人間が聞いたらまるで<変質者の戯言>のようにも思えるかもしれないが、彼自身は間違いなく大真面目だし真摯なのは分かる。バイタルサインを詳細に解析したエレクシアの見解も、
「彼は誠実な方だと推測します」
というものだった。ロボット相手に嘘は通じない。人間は<心>を持つからこそ<認知の歪み>が生じて、
『自分の見たいものを見てしまう』
『自分の聞きたいものを聞いてしまう』
欠点があるが、それらと無縁なロボットはただ目の前の事実だけを捉える。サディマがキャサリンに対して邪な感情を抱いてるわけじゃないと見抜いてくれる。確かにバイタルサインだけじゃ<人間の心>まで見抜くことは難しいにしても、ロボットを制御するAIには<数千年分のノウハウの蓄積>がある。その間に見てきた実例とのすり合わせを行ってきた事実がある。だからこそ俺自身、
『エレクシアに心まで読まれてる気がする』
なんて感じてしまったりもしたんだ。もっとも、『読まれてる気がする』だけじゃなく事実上、かなりの部分まで実際に読まれてしまってるんだよなあ。




