キャサリン編 セーフティネットの一部
だからといって『キャサリンの方が優れていてイザベラは劣っている』みたいなことを言いたいわけじゃない。そもそも何をもって『優れている』『劣っている』と言うのか、それ自体が非常に曖昧だし。
『社会に適用できているかどうか』という話になればむしろイザベラの方に分があるだろう。キャサリンはあくまで『表立って敵対はしていない』だけで<人間としての社会生活>は営んでいないからなあ。俺達はそれを問題視しないものの地球人社会であればキャサリンを危険視する者も少なくないと思う。
『今は大丈夫でもいつか事件を起こすに違いない』
的なことを言う者もいるだろう。非常に残念ではあるもののそれもまた<現実>だと思う。しかもキャサリンの場合は確かに接し方を間違えると<事故>が起こる可能性は高い。ペットとして犬を飼っている者でさえ、飼い犬との接し方を間違えて死亡事故すら起こしてたりするわけで。
ただ、人間以外の動物とのそれはあくまで<事故>ではあるものの人間であるキャサリンが他人を害すれば<事件>になってしまう。
しかし何度も言うようにキャサリンの方からは人間を害しようという意図は感じない。馴れ合うつもりは毛頭ないようでありつつ、自ら人間を攻撃するつもりはないのは伝わってくるんだ。
でもそれも俺達がキャサリンのことをよく知っているから要点が分かるだけで、
『知らない人間が他人の飼い犬に余計なちょっかいを掛けて事故になる』
みたいなリスクも想定しておかなきゃいけないよなあ。ここでも人間が増えてくるとその辺りをわきまえられないのも出てくるだろう。だからこそ今からしっかりとノウハウを蓄えていって<朋群製AI>に反映していかないといけない。
人間はどうしても自分の感情を優先しがちになるから自身の振る舞いを周囲がどのように受け取るかについては疎かになる場合が多い。他人の飼い犬に無闇に近付いて行って事故を起こすのなんてその典型だろうし。
『可愛い犬に近付きたい』
という自分の感情ばかりを優先してそれが犬にとってはどんな意味を持つ振る舞いなのかを考えようともしない。しかしAIはどちらにも入れ込まないし共感もしないからただ原因がもたらす結果を予測し事故を回避するための対処法を提示してくれる。ロボットに搭載されたAIはロボットにその対処法を実行させる。それ自体が今の人間社会のセーフティネットの一部なんだよ。何かが起こってからサポートを行うんじゃなくて、
『その何かが起こらないようにしてくれる』
という形の。




