キャサリン編 それに挑戦しようと
深夜に就寝し、今日は昼過ぎにようやく目を覚ましたサディマは、それこそ『休暇でホテルに宿泊している』そのままの様子でゆったりと過ごしていた。昼過ぎに目覚めたのもやはり相当な疲労があったからだろう。肉体的にも精神的にも。
健康診断の結果には大きな問題は見られなかったものの、当然のごとくそれなりに衰弱や過労の兆候は見られたから、むしろゆっくり休んでもらえて安心したよ。
AIの開発を手伝ってもらいたいのは事実でも、決して彼をいいように利用したいわけじゃない。まずは彼自身が健全な状態であってくれてこそなんだ。
しかし<朝食>を終えると、コーネリアス号の私室に残されていたものを届けた私服に着替えて、防疫室内の作業用デスクに着き、端末を操作し始めた。<朋群製AIのアルゴリズム>をチェックしているようだ。
が、彼は小さく苦笑いを浮かべてそれに手を加えていく。俺達が『一般的な資料を基に』書き上げたものは専門家である彼の目にはすごく拙い出来に見えたんだろう。しかもそこはレックスが担当していた箇所だった。
生物学者としては非常に優秀なレックスも専門外であるAIでは本人曰く『素人に毛が生えた程度』でしかないそうだ。まあそれも当然だな。レックスでそれなら俺が受け持ったところなんか目も当てられない惨状だろう。そんなものが実際に使えるようになるまでには果たしてどれだけの時間が必要なんだか。
一応、AIが稼働し始めれば自ら最適化を図ってくれるもののそれすら『稼働し始めれば』であってそもそも稼働しなければそれすらないわけで。
『素人でもマニュアル通りにちゃんとやればAIは稼働する』
というわけじゃなくなってるのが今のAIなんだ。特に地球人社会の場合だと既に稼働中のAIと上手く折り合いがつかないと起動すらしないのは当たり前になっている。ましてや小型端末じゃないロボットのそれともなれば。
だから基本のアルゴリズムが組み上がっても実際に起動させるにはその辺りの調整が必要で、専門家でさえ新しく組んだAIを一発で起動させるのは稀だとも聞く。こうなるともう命を一つ生み出すのと大差ないのかもしれない。今のAIはもはやそのレベルなんだ。
そこまでいってもまだ<命>ではないと。つまり命というのはそれだけ途轍もないものだということなんだろうな。
それを疎かにするのは本当に罪深いことなんだと改めて思い知らされる。
サディマはそれに挑戦しようとしているというわけか。




