キャサリン編 ほっとしたよ
『サディマがキャサリンに一目惚れしたらしい』
まさかの事態に俺も困惑しつつ、
「それにキャサリンは、アラニーズとしてはもう立派に<成人>してると言ってもいいくらいに肉体的には成熟してるが、実年齢はまだ十歳にもなっていないんだ。そういう点でもいろいろと憚られる部分はある」
これまた事実を端的に述べさせてもらった。途端にサディマは、
「十歳……!? にもなっていないのか。さすがにそれは普通に考えたら問題あるね」
正直、いまさらここで実年齢を持ち出すのは卑怯だと俺も思う。基本的に地球人の感覚とは別に『朋群人としてどうか』で考えるようにしてるからな。当人がもう十分に成長していて自らの行動に責任が持てるならとやかく言わない方向でと考えてるし。
さりとて『ルコアが未来達の実年齢が引っかかっていて素直に気持ちを受け入れられない』というのも現にあるからなあ。そして俺自身も『十歳にもなっていない』のはどうしても引っかかりがある。
この辺りもしっかりと詰めていかないといけないだろう。<朋群製AI>を作るにあたって、
『朋群人は何歳で大人になるのか?』
もある程度の基準は必要になるだろうから。地球製AIは基本的に法律上の成人年齢で判断するし。
老化抑制処置が普及する以前の地球では、
<子孫を残すことを前提とした生物としてのピーク>
を根拠にまだ精神的に未熟な十代半ば頃がもっとも<旬>である的な主張をする者達がいたらしいが、<野生>を捨ててしまった人間がそれを口にするのがいかに的外れかを考えもしないんだろうなと思わされる。
だいたい、老化抑制処置が実用化されて安全に妊娠できる期間がはるかに長くなり、かつ胎児に何らかの異変が見られてもほぼすべての事例で確実に対処できるようになった時点で年齢の話はもう完全にナンセンスなものになってしまったんだよ。
なにより、人間社会自体が複雑になり十代半ば程度では十分に社会に適応できなくなった現実すら見て見ぬふりしてこねくり回される屁理屈に道理があるとは思えないな。
そういう話をしている連中は、精神的に未熟な内に子供を生んだ者達にちゃんと手を差し伸べるのか? 子供を育てていけるように支援してくれるのか? しないだろう? 綺麗事でしかない人道を説いて自分では何もしない者達と何が違う?
結局のところ自分達の<欲望>を正当化したいだけでしかないというのが実際のところだろう。
その点サディマの場合、キャサリンがまだ十歳にも満たないと聞いて一歩引いてくれたことにほっとしたよ。




